は、一年生ながらにバドミントン部シングルスでレギュラー(と言ってもを含めバドミントン部は5人しかいない)で、先日の大会で見事優勝をしていた。うちの学校でバドミントン部からは優勝どころか入賞もなかったため、この快挙に担任も誇らしげだった。五月の末、既には今年のインターハイ、バドミントン個人戦への出場を決めたと言う訳だ。
 どうやら中学の時から全国中学生大会とやらなんとやらでは好成績を残しているらしく、その手の学校からスカウトや推薦も多く来たらしい。バドミントン会では注目されている存在だというが、本人の普段の無気力具合を見るとどうも信じられない。
 そして入学式以降、しぶとく話し掛けてはいるが、結構軽くかわされたり誤魔化されたり、あしらわれたりしている。
 顔は普通、体は華奢、背は小さい。だがラケットを毎日振っているだけあって右腕は引き締まっている。捲られたカッターシャツの袖から覗く白い腕を眺めた。

「…ねえ御幸くん、そこ君の席じゃないと思う」
「空いてるし」
「席の主が迷惑してるんじゃない」
「昼休みに出て行ったんだ、当分帰ってきやしねえだろ」
「で、今日は何の用」

 特に用はない。は入学当初から友人を作ろうとする気配もなく、休み時間もひたすら読書をしている。それはバドミントンの本だったり、漫画だったり、小難しい小説だったりとまちまちだが。とりあえず、空きになっている右隣の席に座ってプレッシャーを掛けてみることにした。そして出たのが先程の言葉だったと言う訳だ。さすがに意識したらしい。

「今日は何読んでるんですかー」
「御幸くんには理解できないであろう話です」
「俺だって純文学の一つや二つは…」
「マイヤーリング」
「は?」
「本のタイトル。オーストリア=ハンガリー帝国の皇太子と男爵令嬢が心中した事件を元に書かれた話」
「すげえの読んでんのな…」

 が読む本は多岐に渡る。この間は有川なんとか、その前は夏目漱石、その前はドストエフスキー。かと思えば少女漫画を持ち込んで読んでいる。食い入るように何かの記事を読んでいると思えば、社会人野球の記事だ。なんだこいつ、野球に興味あるのか。しかも社会人野球ってまた。そこだけをじっと読んでいるというのは珍しい。そう思って、次の質問を投げかけてみる。

ってバドミントン以外興味ねぇの?」
「あんまり」
「ふーん」
「それ以外のスポーツやっても微妙だったし」
「でもこの間のシャトルランすごかったらしいじゃん」
「…誰に聞いたの」
「や、隣のクラスの女子が騒いでた」
「ふうん」

 スポーツテストの総合得点も良かったとかなんとか言ってたっけか。さすがバドミントンで全国優勝しただけのことはある。けれど、そんながたった五人のバドミントン部で満足しているのだろうか。以前聞いた時は「楽しいから良い」なんて言ってはいたけれど、切磋琢磨し合えるような相手とか、部内に要らないのだろうか。そんなんじゃ、張り合いがないような気もする。

「あのさ、御幸くん」
「なに」
「私、詮索されるの嫌い」
「……」
「知りたいことあるなら直接言ってくれる。気持ち悪いから」
「きも……まあそりゃそうだわな。ごめりんこ」
「それも気持ち悪い」

 野球部の先輩にもえらく毒舌な人がいるが、ならその先輩とまともに渡り合えるような気がした。








(2014/06/07)