私には、高校以来の大事な親友がいる。出会った時にはとんでもない病弱で、学校で倒れたこともあるくらいだ。出会った当初はそんな重い病気を持っているなんて知らなくて、ただ控えめで大人しいだけかと思っていた。その少し前、初対面時はおすましさんなのかと思っていたけれど。 そんなあの子は入学して半年、手術を受けることになった。それを聞いた時は随分泣いたらしい。私も心配したけれど、生まれてからずっと健康優良児だった私にできることなんて、かけられる言葉なんて何もなくて。手術の後も、数日経ってから顔を見に行ったくらいだ。その時は私の方が泣いたっけ。 医療ドラマを見ての想像しか私にはできないけれど、どんな手術にもリスクはあると言う。ちょっとしたミスで亡くなってしまうこともあるそうだ。だから、手術を終えて笑顔で私を迎えてくれるあの子を見た時、“生きて帰って来てくれたんだ”と、それを真っ先に思った。あの子自身、手術前より幾分かすっきりしたような顔をしていた。きっと、悩み続けていた片思い相手の黄瀬と何かあったんだろうと思えば、予想通りそうだった。黄瀬とのことも応援していたから、ダブルで嬉しかったっけ。 (あれから10年かあ…) 黄瀬はどんどん有名になるし、身体が丈夫になったあの子は自信がついたのかどんどん綺麗になって。高校から10年と付き合っているカップルなんてそうそういないだろう。この10年間ずっと見守り続けて来た二人が、とうとう今日、結婚した。純白のドレスに身を包んだあの子はそれはもう、これまで見た中で一番綺麗で、黄瀬と寄り添うあの子は世界一幸せそうで、あの子の両親につられて私も泣いた。最近は特に涙脆いみたいだ。 「香澄!」 「、結婚おめでとう」 「ありがとう。香澄が来てくれて本当に嬉しい」 「私もあんたのウエディングドレス姿が見れて幸せだよ」 「ちょっとちょっと、なに俺のお嫁さん口説いてんスか」 私とが話していると、私に突っかかって来る黄瀬もこの10年全然変わらない。これだけ有名人になっちゃって、結婚報道がされた時はのことを心配したけれど、幸い、事件というような事件も起きていない。長いファンや熱狂的な黄瀬のファンがどう思うかは知らないが、そんな他人のことは私は知らない。私が祝福しているのは、親友のと高校の同級生である黄瀬の結婚なのだから。 は、「へへ」と照れたように笑う。その顔を見るだけでお腹いっぱいだ。私は、見事キャッチしたブーケに顔を寄せた。らしい、ピンクのガーベラの可愛らしいブーケ。きっと黄瀬も、のウエディングドレスやブーケ選びに唸ったんだろう。思いが通じ合ってからというもの、それはもうを溺愛していたのだから。私からすれば、手のひらを返したみたいにころっとを向きやがって、と思ってみたり、「都合のいい男め」と蹴りを入れてみたりしたけれど、なんだかんだ、が幸せそうだから良いか、という所へ落ち着いた。 「ねえ」 「なに?」 「近い内、招待状行くと思うから」 「へ?」 「え!?山下、そんな相手いるんスか!?」 「黄瀬ってほんっと失礼だよね!いるよ!」 あんたもよく知る人間だよ、とまではまだ言ってあげない。それは招待状が届いてからのお楽しみだ。 高校時代と変わらないやり取りをする私と黄瀬を見て、はおかしそうに笑う。そこには、自分を飛べない魚だと揶揄したあの頃のはもういなかった。 ← ![]() (2013/05/04) |