さんって最近雰囲気変わったよな。そんなクラスメートの男子の言葉を耳にした。、という名前につい反応してしまう。確かに最近、ようやく男子生徒のいる教室に慣れて来たのか、はよく笑うようになった。それでも主に女子の友人たちとだが。そういうを見掛けてか、こういう年頃特有の女子の話で盛り上がる男子がいた所でなんらおかしいことはない。

ちゃん人気らしいな〜」
「そうか」
「よく見たら意外と可愛いしさー、声も可愛いしさー、お嬢様校出身なだけあって品もあるしさー」
「そうか」
「そんでピアノも弾けるんだろ?女子としては最強じゃん」
「…よく喋るな」
「高尾ちゃんはいつもと同じです」

 どいつもこいつもとうるさい。苛々していた所へ追い討ちをかけるかのように、高尾がのことを話題に出して来る。ちゃんとおはあさの占い通り、日めくりカレンダーを持っていると言うのに、今日は悪いことばかり起こっている気がする。
 それ以降はさすがに高尾も黙ったが、目だけは女子と話すの方へ向いたまま、ぽつりと言った。

「真ちゃんさ、ちゃんと喋ってる?」
「…………」
「喋ってない訳だ」
「…認めざるを得ない」
「喋る時間は作るものだって言ったのはどこの誰だか」

 高尾なんかに図星をさされて言葉が返せない。確かににはああ言ったものの、結局バスケの練習だなんだで時間が合わない。しかも最近知ったことだが、は音大コースのピアノのレッスンにも通っているらしく、最近は特に俺が帰宅する時にはいつもピアノの部屋に籠っているのだ。そして微かに聴こえて来るのピアノをBGMに夕食を摂る、といった具合で、見事な擦れ違い生活を送っているのだった。

「でもなんで急にちゃん、そんなにピアノし始めたわけ?」
「さあ」
「知らないと来た」

 はあ〜、と大きなため息を大袈裟につく高尾。俺だって聞けるものならとっくに聞いている。
 教室の端で友人と喋るは相変わらず楽しそうで、制服も着られている感じは抜けた。すっかり秀徳生として馴染んで来ている。だから、ピアノに集中できるようになったのだろうか。勉強面でも悩んでいる様子は特になさそうだ。家でも大分緊張はとれて、俺の両親ともよく話しているようでもある。
 後は、俺との問題なわけだが。

「そんな真ちゃんにアドバイスしてあげようか」
「要らん」
「まあまあそう言わずに」
「…………」

 高尾のことだからまたとんでもないことを言い出すのではないだろうか。そう思いながら鞄の中をごそごそと探る目の前の人物を見る。そして「じゃーん」などと言いながら差しだしてきたのは、まっさらなノートだった。授業で使うのと同じ、ごくごく普通のノートだ。

「…これが、何だ」
「ノートだけど。えっこれ見て分からない!?」
「うるさい黙れ高尾」
「はいはい、っと。だからさ、とりあえず交換ノートしてみたら?」

 交換ノート。なんだその懐かしい響きは。
 高尾の提案に俺は眼鏡がずり落ちたような気がした。







  

(2014/06/12)