「いやいや待ってなんでそんなことになってるわけ!?」 次の日、気持ちも暗いまま高尾くんに事情を説明すると、朝からそう叫ばれた。廊下だったため一瞬で注目を浴びてしまった高尾くんは、「やっべ」と言いながら口を塞ぐ。 昨日の一件以来緑間くんとは一言も喋っていない。夕飯の時間もずらされたし、朝は当然緑間くんの方が学校へ行く時間が早い。そして昨日の今日でまさか声をかけられるはずもなく、高尾くんだけメールで呼び出したという訳だ。 「私が緑間くんを突き飛ばさなければ…」 「いやいや、真ちゃんの早とちりっしょ。最後までちゃんの話は聞かないと」 「ずっと誤解されたままだったらどうしよう…」 「ほらほら、そこネガティブにならないの」 緑間くんのことは好きだ。けれどあの目で睨まれてしまったら、冷たくあしらわれてしまったら、私は立ち直れないような気さえする。せっかく、生まれて初めて好きになった人なのに、こんな風に終わってしまうのだろうか。たったの一度も、好きだと伝えられないまま。そう思うと、またじわりと涙が滲んで来た。 「ちょ、ちょ、ちょっと待ってちゃんここで泣くのはやばい!俺が泣かせたみたいになってるから!」 「う、ごめ、なさ…っ」 今度は視線が高尾くんだけでなく私にも刺さる。じろじろ見る目、ひそひそと囁く声、それらがプレッシャーになり余計気持ちはマイナスへ向く。けれどそうだ、高尾くんを悪者にしてはいけない。私は唇を噛んで堪えた。きっと今、すごく不細工な顔をしているのだと思う。 高尾くんにもらったアドバイスも、巡って来たチャンスも無駄にしてしまった。ちゃんと緑間くんに伝えたい、嫌いだから、駄目だから突き飛ばしたのではないと言うこと。悪気があって突き飛ばしたのではないのだと。恥ずかしくて恥ずかしくて仕方なくて、初めての恋に戸惑っていて、でも好きって言う気持ちばかりが溢れて来て、もうどうしたら良いのか分からないのだと。 「んー、じゃあさ、手紙でも書いてみたら?」 「手紙…?」 「面と向かって言えないならさ。真ちゃんならそういうの気持ち悪がらないし」 決まり!な!他にないから!―――高尾くんは強引に決定する。けれど確かにそれ以外に方法は思いつかない。 今度こそちゃんと伝えなければ。緑間くんともっと色んな話をしたいこと、もっと近付きたいこと、もっと時間を共有したいこと。そして何より、謝らなければ。 昨日からずっと、緑間くんのことしか考えられない。人を好きになるって、こんなにも苦しい気持ちが伴うものなのだと、私は初めて知った。 ← ![]() (2013/10/17) |