とはぎくしゃくしそうになったが、高尾に「そんなんじゃちゃん、家に立場がねぇだろ!」という一言を受け、至って普通に接しようとした。は割とこれまでと変わらないように見えるが、俺の方は駄目だ。なぜかやけに意識してしまい、ややぎこちなくなる。それを隠そうとして言葉は突き放すようなものになる。これでは駄目だ。せっかくは男性恐怖症を治さんと努力していると言うのに、自分がその弊害になってどうする。

「俺は、の邪魔をしたい訳ではない」
「お、おう…分かってるよ真ちゃん…」

 そういうことで誠に不本意ではあるが、こうして高尾に話をしている。事情を知る人間が高尾しかいないからだ。

「俺や高尾に慣れ始めた今、と間違ったコミュニケーションをとる訳にはいかないとも思っている」
「おー…」
「今ここで一つでも間違えたりしたら、せっかく前を向き、歩き始めたが二度と立ち上がれないような事態になるかも知れん」
「おー…」
「それなのに昨日のあの男子生徒…!要らん節介を焼いてくれる…!」

 話は遡り昨日、はラブレターを受け取り、その告白に返事をすべく体育館裏へと向かった(ベタな呼び出しだ)。しかし相手は予想外にしつこく、に掴みかかろうとしたのだ。嫌がるに何てことを、と思った俺は、を引っ掴んでそいつから引き離したと言う訳だ。その際、俺はが嫌がるであろう“触る”という行為をしたはずなのだが、どうやら俺には大分慣れたらしく、失神するようなことはなかった。それどころか、初めて俺に向かって微笑んで見せたのだ。これはにとって大いなる一歩である。
 しかし、昨日の男子生徒を思い出すと腹が立って仕方がない。震える俺に「どーどー」などとふざけたことを言いながら、高尾はシャーペンをくるくると回した。そうだ、俺はこいつの日直に付き合わされていたのだった。その代わりに話を聞けと言ったことをすっかり忘れていた。

「…てゆーかさ真ちゃん、それ俺に言っても意味なくない?」
「なぜなのだよ」
「えー!」
「いきなり大声を出すな、喧しいのだよ」
「いやさ、それって俺じゃなくてちゃんに言うべきなんじゃ…」
「だからなぜだと言っている」
「さっきの真ちゃんの言葉ってさ、言い方は乱暴かもだけどちゃんにとってスゲー力になると思うわけ。味方になってくれる男だっているんだって思えば、また一歩進めるんじゃねーの?」

 なるほど、一理ある。こういう時、欲しいのは味方だ。それは、自分を傷つけることはないと言う絶対的な存在である。が男性恐怖症になった理由は聞いたことがないが、恐怖体験でもしたのかも知れない。そうであれば、一人でも多くの信頼のできる男性がいることで、は警戒心を少しずつ解くことができる可能性がある。

「分かった。に話してみるのだよ」
「…そういう素直な真ちゃんが俺は好きだなー…」
「気持ち悪いのだよ」
「辛辣!」

 辛辣という言葉を知っていたのか、という言葉が飛び出そうになったが、良いヒントを貰ったこともあり、それは言わないでおくことにした。代わりに、日誌を早く書けと急かす。まだ部活が始まる時間ではないが、こうものんびりしていてはあっという間に時間が迫ってしまう。

「味方と言えば、俺だけではなく高尾も…」
「俺はとっくに打ち解けてっけど?」
「なに、」
ちゃんとアドレス交換済みだし、メル友だし」
「…………」

 負けた。そんな気がした。







  

(2013/05/05)