昼休み、がいそいそと席を立ったのを目で追って、高尾が口を開いた。その言葉に、俺は盛大に噴き出すことになる。

「真ちゃんはさー、ちゃんのどこが好きなわけ?」
「な…っ!?何を言っているのだよ!?」
「あれっ、違った?」
「そんなわけがないだろう!」

 俺が、を、好いているだと?…高尾の言葉を頭の中で何度も噛み砕くも、理解ができない。自分の中で上手く噛み合わなかった。はうちで預かっている余所の娘で、且つクラスメートで、従って仕方なく面倒を見てやっているだけだ。これまでの俺とを見て、一体なぜそういう結論に至ったのか高尾の頭の中は甚だ謎である。手にしたペットボトルを捻り潰さん勢いで握ると、蓋が開いていたそれは中身が零れた。

「あーあー、そんな動揺しなくても」
「高尾が訳の分からんことを言うからなのだよ…!」
「当たらずとも遠からずってとこだろ、真ちゃん」

 机を拭いた今日のラッキーアイテム、星柄のバスタオルがびしょ濡れになってしまった。

「いーじゃん、ちゃん良い子だし」
「そういう問題ではないだろう…」

 菓子パンを口にしながらマイペースに話を続ける高尾を横目に、弁当を広げる。そういや、今日は弁当も母とが作っていた気がする。中身を見ると、見慣れない色の卵焼きが入っているのに気がついた。恐らくこれはが作ったのだろう。口に放り込むと、母が普段作るものよりも随分甘かった。…は玉子焼は砂糖派らしい。牛乳も入っているらしくいつもの玉子焼きよりも淡い色をしていた。これはこれでアリだな。
 その時、教室を出て行ったが帰って来たのが視界に入った。そのを見て、思わず箸で取った玉子焼きをぽろりと落とす。これまで見たことがないほど真っ赤になり、目いっぱいに涙を浮かべ、震えているのだ。ふらふらしながらこちらに近付き、すとんと席についた。何か外でいじめられでもしたのか、高尾と共にを振り返った。俺たちだけでなく、が仲良くなったというも駆け寄って来る。

、一体どうしたの!?」
「あ、あの、あの…」
「落ち着いて、ちゃん」
「ああ、あの、わた、わたし…っ」

 ほとんど何も言えないまま、はくしゃくしゃになった髪と封筒を机の上に出した。悪口でも書かれていたのだろうか。焦ったと言うのか、心配になったと言うのか、手を伸ばしかけた高尾よりも早く、その手紙を俺は引っ手繰った。
 中身を見て、俺は固まる。後ろから覗き込んでいた高尾は喧しく「真ちゃん真ちゃん!これってさ!」と叫びながら俺の背中をばんばん叩いた。…後で覚えていろ。

「ど、どうしよう、わたし…わたしそんなの、うけ、られな…っ、知らない人、むり…っ」

 隣のクラスの男子生徒からの、が人生で初めて受け取ったラブレターだった。







  

(2013/04/15)