嘘や冗談ではないらしく、は本当に男が苦手のようだった。小さな子どもは除外されるらしいが。その証拠に顔を見て話さないし、ずっと顔は赤いままで、敬語は抜けず、笑顔も喋り方もぎこちない。本当に、なぜうちで預かることになったのだか。これなら一人暮らしをしていた方がのためにもずっと良いだろう。 「…秀徳は共学だぞ」 「し、知ってます」 「前の学校は」 「白羽女子学園です」 都内でも5本の指に入るであろう中高一貫のお嬢様学校ではないか。一人っ子で大事に育てられて来たということなのだろうか。聞けば幼稚園からずっと私立だと言う。駆け落ち夫婦にしては経済的に余裕があり過ぎる。一体どんな仕事をしているのか少々不安にさえなって来た。引っ越し業者による荷物の搬入も終わり、が部屋で荷ほどきをしている間にこっそりと母に聞くと、「知らないの?」と逆に驚かれる。 「夫婦って言ったらあの有名な医学博士夫婦よ?」 「…………」 「なんでも、数年間アメリカの大学で講師を務めるらしいわ。すごいわよねぇ」 私立学生なのも、頭が良いのも理解した。しかしやはり、そんな大事な娘(しかも男が苦手)をよその家に預けると言う考えだけは理解できなかった。見る限り結構重症ではあるし、夫婦なりの荒療治なのだろうか。 だが先が思いやられる。秀徳も半分は男子生徒だ。教師ももちろん男が多い。今この状況で三年間通い続けることなど可能なのだろうか。そもそも、こういった人間に荒療治は向かないのではないか。 「、昼だが」 「はいっ!?」 ゴン、と鈍い音。が机に足をぶつけた。何をどうしたらさっきの体勢から足をぶつけるのだか。しかしここで俺が様子を見に近付いても逆効果だ。涙目になりながら足をさするを見つめながら、気付かれないように溜め息をついた。 大体、これが男性恐怖症だとして、きっと何か原因があったはずだ。共学へ放り込むよりもその原因を解決してやる方が手っ取り早いのではないだろうか。その原因を聞こうにも、初対面の、ましてや男である俺にそう易々と話すはずがない。こんな調子でずっと生活していくのはこっちも気苦労が絶えない。少し慣れて来た頃に母から聞いてもらえば良い。 「え、ええと、なんでしたっけ」 「昼は何でもいいか」 「はい、特に嫌いなものはない、です…」 その引き攣った笑顔に、「男以外は」とでも書いてあるような気がした。 ← ![]() (2013/02/16) |