が来る日、運が良いのか悪いのか、俺は部活が休みだった。そわそわする母を横目に、いつも通りおは朝占いをチェックする。…今日のラッキーアイテムは青い茶碗か。
 は転入試験やら手続きやらで何度か秀徳に来たようだが、生憎一度も遭遇しなかった。しかし、かなり難しいと言う秀徳の転入試験に合格するとは、進学校にでも通っていたのだろうか。そうこうしていると、玄関のチャイムが鳴る。が着いたのだろうか、随分と早い。

「きっとちゃんだわ。引越し屋さんが朝早いから、それよりは早くに来るようにするって言ってたもの」
「そうか」
「あなたも手伝うのよ。お父さん、今日いないんだから」
「…………」

 そんなことは引っ越し業者がしてくれるだろうに、俺をずるずると玄関まで引っ張って行く。そして玄関を開けた母は、嬉しそうに「おはよう、ちゃん、いらっしゃい!」とを招き入れる。遠慮がちに入って来た彼女は、最寄りの駅から走って来たのかやや息切れをしていた。首周りに纏わりつく髪を避けながら、「お、おおはようございます!」…なぜどもる。

です。よろしくお願いします」
「…ああ」

 何を入れているのか、頭を下げたままの彼女の後ろに隠れている赤いキャリーはぱんぱんに膨れている。
 あれから一週間、やはりの顔などぼんやりとしか思い出せなかったが、今目の前にいるに面影が重ならない。髪は随分伸びたが、当然のことながら背は随分小さい。女子の平均あるのだかないのだか。そんな小さな体が一生懸命膨れたキャリーを引いて走って来たのかと思うとどこか面白い。

ちゃんの部屋はこっちよ」
「ありがとうございます」

 言いながら、非常に重そうなキャリーを持ち上げる

「持ってやる」
「うわぁっ!?」

 …そんなに重くないではないか。彼女のキャリーを奪った感想がこれだ。まあ、彼女にしてみれば重かったのだろう。用意されていた彼女の部屋へそれを運ぼうとしたのだが、後ろから足音がついて来ない。不思議に思い振り返ると、まだは玄関を上がった所で立ち止まっている。しかも顔を真っ赤にして、心臓の辺りを抑えながら。待て、俺は何もしていない。

「…、」
「だ、だだだいじょうぶです!そこで、だいじょうぶです!」
「何が大丈夫なんだ」
「あ、言い忘れていたわ真太郎。ちゃん、自分のお父さん以外の男の人が苦手なのよ」

 おい、大問題じゃないのかそれは。







  

(2013/02/16)