「昔隣に住んでたちゃん、覚えてる?」 「か?」 「来週からうちに来るからね」 からん、と行儀悪くも箸を落とす。まるで犬猫が来るかのように、大きなニュース簡単に言ってのけた母。娘ができるみたいで嬉しいわ、などと呑気なことを言っているが、分かっているのだろうか、自分も一応男子高校生だ。家族の目がいくつもあるとはいえ、血縁関係のない思春期男女を同じ家に住まわせるなど、自分の親もの親の神経も疑う。そう言えば、この間から両親が物置と化していた空き部屋をせっせと掃除していたことを思い出す。が来ることは結構前から決まっていたというのか。 「ちゃんのご両親、これから数年間海外でお仕事でね」 「だからと言ってなぜうちなのだよ」 「夫婦って駆け落ちだから頼れる親戚がいないのですって」 それで、まるで家族のようにしていた我が家を頼って来たと言うのか。 自分はまだ幼い子どもだったため覚えていないが、お人好しな両親は家にも随分良くしていたようだ。本人ともよく遊んだ気がするが、今や顔すら朧気である。彼女も彼女でよく納得したものだ。遠くに引っ越したと言うのだから、またここへ来るということは転校もしなければならない。こんな中途半端な時期に、本当に本人も納得した上なのだろうか。 そんな懸念を余所に、母は鼻歌まで歌い出した。が来る日がよほど待ち遠しいらしい。 (高尾が知ったら大笑いしそうだな…) クラスメートでありチームメイトである一人の人物を思い浮かべながら、再び朝ご飯に手をつけた。 ← ![]() (2013/02/16) |