雰囲気も何もないプロポーズだった。けれどあまりの不意打ちに真っ赤になって、その言葉を噛み砕けたところで私は泣いた。…そうテツヤくんに職場である保育園で報告すれば、彼は目をぱちくりさせた。

「僕からすればまだ結婚していなかったことが不思議ですけど」
「結婚のけの字も出たことなかったわよ」

 大輝くんとはテツヤくんを介して知り合った。短大で同じ学部だったテツヤくんが「そろそろしっかりさせたい人がいるんですけど」と紹介して来たのが大輝くんだったのだ。最初は何を言われているのかさっぱりだったが、会って納得した。ずっと実家暮らしをしていた彼は、収入以外の生活力が皆無に等しかったのだ。おっきな子どもだと思うとつい世話を焼いてしまい、まんまとテツヤくんの思惑通りにことは運んでしまった。そうしている間に三年が経っていた。

「じゃあ、結構嬉しかったんじゃないですか?」
「……うん、かなり」
「はいはい、ご馳走様です」
「ちょっ」

 何の腐れ縁か、テツヤくんとは短大から就職までずっと一緒で、私と大輝くんのことは大概筒抜けである。私たちが喧嘩をした時も、仲介してくれたのはテツヤくんだった。大輝くんと私、両方から文句を聞かされるテツヤくんは、相当迷惑しているとは思う。けれどなんだかんだで面倒見のいいテツヤくんは、私たちを見放すことは決してしなかった。だから、私が両親以外で結婚の報告を最初にしたのはテツヤくんだ。

「それで、プロポーズの言葉は何だったんですか。彼、あんまり甘い言葉を言うように見えませんが」
「言ったでしょう、雰囲気も何もないって」
「具体的には」
「う…それを言わせる…」
「これまで君たちの面倒を見て来たんです。それくらい当然でしょう」

 じとりと私の方を見るテツヤくん。子どもたちがお昼寝中だからって、好き勝手言ってくれる。しかし彼の言うことも尤もなので、私はぼそぼそと答えた。

「結婚するぞって…」
「すごいですね、青峰くんらしい強引さです」
「で、でも、」
「ときめいたんでしょう、先生」

 歳の割に乙女ですね、と青峰くんに言われたのと同じ言葉を言うテツヤくん。私は恥ずかしくて、そんなテツヤくんの頭をばしんと叩いた。結構、容赦なかったと思う。







  

(2013/08/12)