何てことない土曜日、その日はあまりに暑かったため、外に出るのは嫌だと私は駄々をこねた。暑さに慣れてる大輝くんは一瞬顔を歪めたが、結局は大輝くんの家に転がり込むこととなった。特に何をするでもなく、借りてきたDVDを二人で見ていたのだが、大輝くんはちゃんと見ているのか見ていないのか、時々欠伸をしている。多分、見ていないだろう。 「いつも思うけどよ」 「うん?」 「って歳の割に思考が乙女だな」 ちゃんと見ていたらしい。いやそれより聞き捨てならない言葉があった。歳の割にとはなんだ。私と大輝くんは同い年ではないか。私の方がちょっとばかり誕生日が先だけど、大輝くんだって明後日には私と同じ、26歳になる。 「良い作品は何回見ても良いの!いくつになってもこういうのに憧れるのが女性って生き物なんだから」 「へーへー」 見ていたDVDの内容はこうだ。あちこちで詐欺を働いていた男が天涯孤独の老人の財産に手を出し、それを老人が亡くなり相続したことで詐欺師としての人生が大きく変わる。現れたのは、生き別れた老人の娘を名乗る女性だった。彼女は男を兄だと信じて頼るのだが、その純粋さと波瀾万丈なこれまでの人生を聞いて、男は彼女を妹として接するようになり……といった内容だ。最後は弁護士からネタばらしをされて兄でないことはバレてしまうのだが、いつの間にか彼女を好きになっていた男が告白をして結ばれ、ハッピーエンドということだ。 確かにツッコミどころもあるし、あらすじだけ見ればチープだろう。けれど要所要所でぐっと来る場面の多いこの作品、私はもう台詞を覚えるほど見ているのだ。ちょうど場面は、男が別れを告げようとする女性に「お前が好きだ!」と叫んで抱き締めている所である。 「はー…私もこんな情熱的に告白されてみたいー…」 うっとりしながら、両手でぴったりと頬を覆って画面を眺める。ぽつりと呟いたのはささやかな願望だ。別に、本当にそれを望んだ訳ではなく。けれど、大輝くんは急に声のトーンを落として「おい」と声をかけて来る。…ちょっと待ってよ、良い所なんだから。 「おい、こっち向けって」 「もー、なによ…」 むっとして隣にいる大輝くんの方を向くと、素早く私の頭を捉えて唇を押しつけて来た。驚きで何度も瞬きを繰り返す。今のはどう考えても 「結婚するぞ、」 それが、まさかの大輝くんからのプロポーズだった。 |