部屋の中にいても冷えるのは変わらない。もちろん外にいるよりはましなのだけれど、手足が冷たくなるのは仕方のないことだった。弟たちは雪が降ったからと言って、また総司さんに遊んでもらっているらしい。庭先から楽しそうな声が聞こえて来た。私はと言えば、お仕事中の斎藤さんにお茶を持って来た所だ。一段落ついたらしく、手を止めて部屋に入った私を見る斎藤さん。寒いですね、と言うと、ああ、と一言だけ返す。私と斎藤さんの会話は、およそ天気や季節の話で始まる。それは出会ってから今日まで、殆ど変わりがないことだった。

 温かい湯呑みを差し出した後、私は手を口元にあて、はあっと息を吐き出しては温めた。炊事や洗濯、掃除のせいであかぎれの酷い手は、本当は斎藤さんの前では出したくない。どうせなら、もっと綺麗な手だったらよかったのに。冬だからと言って悪いことばかりではないけれど、こういう時ばかりは冬の冷たさを恨むのだ。


「大丈夫か、
「え?」
「随分と冷たい」
「あ…っ」


 そう言うと、冷えた私の両手を斎藤さんの手が攫って包み込む。私とは違う大きな手、長い指、手のひらが硬く触れるのは長年剣を握って来たからだろう。けれどその手を、私はきれいだと思った。そういうことは、斎藤さんは嫌がりそうだから言わないけれど、そう思ったのだ。その手はたくさんの命を殺めて来たといつか言っていたけれど、その裏に救われた命もあるに違いない。私と斎藤さんだって、斎藤さんに助けられた所から始まったのだから。


「…言い忘れていたのですが」
「何だ」
「今年もよろしくお願いしますね」
「……もう昼前だぞ」
「わ、分かっていますっ!でも、斎藤さんだって朝から走り回られていて言い逃していたんです」


 呆れたように昼前だ、なんて返されて、私は口を尖らせた。…もうそんな可愛らしいことをする年でもないのだけれど、そうもしたくなったのだ。最近の斎藤さんは、時々こういう意地悪を言う。でも嫌じゃないのは、以前より少しだけ距離が縮まったように感じるからかも知れない。

 言い訳をした途端、なんだか恥ずかしくなって顔を背ける。すると何がおかしかったのか、斎藤さんは喉で笑って肩を震わせていた。…ますます私はご機嫌だ。「離して下さい」「何故」…何故も何も、向かい合って手を握っているなんて不自然だろう。誰かに見られたら恥ずかしくて顔から火が出そうだ。二人きりというのもまだこんなにも緊張すると言うのに。



「…なんですか」


 こういう時だけ唐突に名前で呼ぶ斎藤さんは狡いと思う。一体私をどれだけどきどきさせれば気が済むのだろう、と。


「あんたが居てくれることに感謝する」


 本当に唐突だ、何事も。それまでの会話の流れから、どうやってその言葉が出て来たのか不思議でならない。けれど、普段なかなか自分の気持ちを口にしてくれない彼から紡がれた思いもよらぬ言葉に、私の心臓は一層早く鳴る。何度も瞬きをしてからようやく斎藤さんの言葉を呑み込むと、指先も気持ちも温かくなるようだ。まだ握られたままの手が、どんどん熱を帯びて行く。おまけに顔も。

 私を見る少し意地悪な斎藤さんは、小さく笑うと何も言わずに口接けをして、すぐに離れた。その時僅かに顔が赤かったのは、きっと気のせいではないだろう。


















(2011/1/1 新年拍手お礼でした)