「我々の核、ヴェーダの推奨によりあなたがガンダムマイスターに選ばれました」 「ヴェーダ…マイスター…?」 「どうか共に、世界の変革を」 世界なんて、本当はどうでもよかった。
そして、ゆるぎなく。 傷といえばおこがましいのかも知れないが、あたしにも苦い過去の一つや二つ、ある。そうでなければ裏社会でこそこそと仕事なんてしていなかったし、持っている知識を生かせる社会に生きていたはずだ。ある時、あたしの人生には狂いが生じた。それ以来こうやって手を汚す仕事ばかりだ。そしてそれは死ぬまで続くのだろうと思っていた。いつか誰かが迎えに来てくれる、なんてシンデレラのような展開は、ハナから期待していない。そう、これがあたしの運命。 けれど、そんな生活が一転する出来事が起こった。私設武装組織ソレスタルビーイング。そのエージェントだとかいう少女が、あたしの元にやって来たのだ。そして唐突に、あたしにその構成員になれと言い出した。冗談じゃない、なぜあたしが世界の為に体を張らなければならないのだ。あたしを切り捨てた世界の為に、なぜ命を懸けなければならないのだ。世界なんてどうでもいい。明日まで命を繋ぐことができるなら、それでよかった。 「それではあなたは何の為に生きてますの?」 「何の為…?」 「まだ私とあまり年が変わらないように見えますわ。そんなあなたがそういう仕事をしてみえるのはなぜ?」 あたしの後ろに横たわる二、三の死体をちらりと見て、あどけなさを残した表情で問う。歪んだ口元が、酷く恐ろしく見えた。 「生きる為だよ」 「それならこちらへ来て戦うのも同じ生きる為ではなくて?」 「…ねえ、あなた言ってることめちゃくちゃじゃない?世界の変革の為に戦えだとか、あたしが断れば今度は生きる為に?訳分からない」 「私は世界の変革を望んでおります。それが叶うのであればあなたがどう思っていようと構いませんわ」 つまりこの女の駒になれということか。しかし、彼女がソレスタルビーイングのトップではないとのことであった。強く望む世界の変革のため、何が何でも組織に協力しようというところか。その為にはあたしが断ることがあってはならないと、そういうことなのか。 すると、不意に笑いが込み上げて来た。これまで散々な生活を送って来たが、突然イレギュラーが関わって来た所で、結局あたしは利用される運命にあるのだ。これまでも、そしてこれからも。そう思うと笑えて仕方がなかった。人には切り離せない縁があるとも言うけれど、縁なんて良いものではない。これはまるで呪縛だ。どれだけあがいても自由になることのできない泥沼の中。そんなあたしに手を差し伸べるその人も、いつもどうにかしてあたしを利用しようと思っている。 どうせ逃げられないのなら、利用されるだけ利用されてやる。そうしていつか、裏切ってやればいい。例えそこに光はなくとも。 「世界の変革…いいんじゃない?とっても面白そう!」 彼女に負けないくらいの笑みで答える。すると、いかにもお金持ちのお嬢様らしい笑みで以て返された。 それが最初。まだトレミーに乗り込む前、地上にいた頃の話だ。 (2009/7/19) ← → |