「何気にあたし、すごいと思うんです」 珍しく至極真剣な顔をして、はそんなことを言い出した。その手に持っているのはここ最近のシミュレーション結果らしい。確かにの銃の腕は確かで、それは機体に乗っていようと生身だろうと変わりはない。少女ながらにロックオンに負けずとも劣らないが、彼女の背景を考えるとそれは喜んでいいのかよくないのかは分かりかねる。とはいえ、本人がさして気にしておらず、結果と過去は結び付けていないため、その結果を褒められることは喜ぶべきことらしい。 結果が伴っているものだから、の発言には嫌味も感じられない。トレミークルーたちもすごいとは思うし、これに関して言うならばあのティエリアも素直にの腕を認めている。だから、敢えて訂正するならば「何気にすごい」のではなく「すごい」だろう。何を改めて、とクリスが言えば、「だって…」と言って不気味とも言える笑みを浮かべた。…嫌な予感がする。 「この!一か月分の!射撃シミュレーション結果!」 「…が、どうしたのよ」 「よく見てクリス!ロックオンも!アレルヤも!」 「ええぇ?」 「あー…これは…」 「見事というか、なんというかだね…」 折れ線グラフでシミュレーション結果が示されているそれは、殆ど全て良い結果だ。グラフも高値を示している。けれど所々急下降を示す箇所がある。その部分と日付を照らし合わせてみれば。 「ティエリアのいない時だけ頗る結果が悪いってことを言いたいんだろ」 「ね、すごくない?」 「ティエリアが見たら何と言うか…」 「…………」 「?」 「アレルヤ、ナイスアイディアです!」 「………え?」 更に嫌な予感がする。のキラキラとした笑顔を見るとそう思わざるを得ないのは最早お決まりの展開だった。ロックオンが制止の声をかけようとするよりも早く、「・、行って来て参ります!」と生き生きしながら走って行く。もだが、「もう止めなくていいか…」と思い始めているクルーもクルーなのだろうか、と思う。彼女がああやって暴走した所で、ミッションには何の支障も来しておらず、ヴェーダの所か部屋に籠りっぱなしのティエリアを引っ張り出すには良い手なのかも知れない。業務連絡以外でティエリアが他者とコミュニケーションをとっているのもくらいだ。まともなコミュニケーションとは言えないかも知れないが。 「尻でも蹴られて帰って来るに一票。アレルヤとクリスは?」 「そうだなあ…左頬を腫らして帰って来るに一票」 「私は額を押さえて帰って来るに一票」 その瞬間、どこからか叫び声と怒鳴り声が聞こえて来る。すっかり聞き慣れたその二つの声に、「ああ、やっぱり…」と顔を見合わせる三人。けれど、どんなにティエリアの機嫌が悪くても地雷を踏みに行くようにティエリアに近付くには、半分感謝している所がある。そういう時のティエリアには、業務連絡であっても連絡しにくいのだ。逆にはそういう時ほどティエリアへの伝言を頼まれると嬉々として了解してくれる。ああいう時のティエリアは、に任せるに限る。 「あ、帰って来たみたいだよ」 「幸せそうな顔してんなあ…」 「頭!潰れるかと!思いました!拳骨で頭挟まれた!」 「うわー…新しい手ね…」 アーデって本当人を飽きさせませんよね!と楽しそうに話すの手には、ぐしゃぐしゃになったシミュレーション結果。それを握りつぶすティエリアの姿が容易に想像できるようだった。ティエリアが飽きせないのではなく、が飽きないだけではないか、と三人はシンクロしたが、ある意味でティエリア信仰のには何を言っても意味ないだろうと、諦めるしかなかった。
もっと冷たく囁いて! |