もっと冷たく囁いて!


〜ドMは問題児〜










「ごきげんようアーデ!ロック強制解除まで残り十秒!九!八!七!」


 喧しい声が廊下から聞こえる。部屋の主のティエリアはそれを聞きながら扉を睨み、だがすぐにパソコンに目線を移した。何度キーを変えても解除されてしまうオートロック。大方、扉の外でカウントしている女、が毎回ハッキングでもして突き止めているだろう。言動に問題があってもコンピュータ知識は無駄に高いので、こんな風に悪用してしまう。どうやら有用という言葉を知らないらしい。


「三二一!じゃーん!」
「ラスト三秒が早い」
「やーだ、早くアーデに会いたかったんだって!」
「何かほざいたか変態女」


 彼女に目線は一切やらずに返事をする。以前延々無視を続けたことがあった。終いには黙りこくって目を潤ませたのだが、さすがにやり過ぎたと思い心配になって彼女に近寄ると、あろうことか「引っ掛かった!」などと叫んで抱きついて来たのだ。当然すぐさま引き剥がして蹴り出してやったが、以来、しめたとばかりに毎日訪問するようになってしまった。物好きどころの話ではない。

 とん、と軽く壁を押して勝手に入って来ると、は止まるためにティエリアの机に手を突く。それを見てまたティエリアが嫌そうに顔を顰めた。そんなティエリアの顎を引っ掴んでぐいっとの方を向かせると、彼女は「むー」と唸りながら、


「アーデ、不機嫌だ」


 いけしゃあしゃあとそんなことを言った。まるでに迫られているようで鬱陶しいと感じたティエリアは、すぐにその手を払いのける。


「誰のせいだと思っている」
「えへへー、あたしあたし」
「分かっているなら出て行け」
「えー構ってよー」
「人の話を聞いてたか?」
「アーデの言葉なら一字一句漏らさずに聞いてる!」
「なら話は早い。今すぐ出て行け、痴女」
「ふ、ふへへへへ…!ごちそうさま!それじゃ失礼しまーす」


 何も食べてないだろう。


「あっ!アーデ、あんま意地悪するとあたし、ロックオンに乗り換えちゃうかも!」
「そうかそれはありがたいな!」


 秒速で銃を取り出すと、は素早く部屋を出て行った。
 せっかくの自分の時間が、あんな喧しい女に邪魔されるなんて以ての外だ。








* * * * *








 緩む口元を、レバーを掴んでいない方の手で押さえながらブリッジへ向かっていると、向こうから噂のロックオンがやって来た。向こうもの姿をみとめると、どちらからということもなく立ち止まる。


「よう、調子はどうだ
「もう最高ですよ」
「よくやるよ…」
「だって、今日、あたし、アーデに触っちゃったんですよ」
「…お前さん一体何したんだ」


 ロックオンは頬を引きつらせながら聞いて来た。なんせの問題児ぶりは刹那にも匹敵する。そのの気分が最高となれば、またティエリアに何かしたに違いないのだ。照れたように顔を赤らめて目をそらす

 おいおい本当に何をしたんだと盛大につっこみたいが、もしものことがあったら聞いたことを後悔するハメになるのは自分だ。ロックオンは敢えてそれ以上何も聞かず、「ああ、そうか」とだけ返すと至極幸せそうなは満面の笑みで「うんそうなんです!」と答える。いっそ清々しい。


「もしアーデが妬いてくれたらもうミッションコンプリートなんですけどね」
「あいつの妬く理由がどこにある…」
「うーん、ロックオンの名前出してもダメだったんですよねー。アレルヤの方がいいと思います?」
「頼むから俺らを巻き込まないでくれ!」
















(2009/3/31)

(まさかアーデの口から痴女なんて言葉が出るなんて…ふへへ…)
、頼むからそれ以上変な趣味に走らないでくれ…)
(無理に決まってんじゃないですかー!)
(刹那やフェルトの教育上良くないってことをいい加減察してくれと言ってるんだ!)
(…それは人目を忍べばアーデと何してもいいってこと?)
(うん、そのいかがわしい表現もよそうな)