「ロックオン!アーデも戻ってますよね!」 地上でのミッションを終えたロックオンが帰って来たとの情報が入り、はすぐに聞きに行った。地上嫌いのティエリアのことだ、さっさと帰って来たに違いない。例え同じマイスターをほっぽってでも、だ。 「いるけどやめとけ。やっと戻れたんだ、機嫌悪いぞ」 「あたしだからいーんです!」 「違いないな…」 「ロックオンもお疲れさまでしたねー」 がしがしと手を伸ばして頭を撫でてやる。よりも随分と背の高い彼を撫でるなど、無重力空間でなければ叶わないことだ。呆れたように笑いながらやんわりとの手を退けると「早く行け」と背中を押した。 「何ですかー可愛くないですよ」 「…お前さん、俺よりいくつ年下だ?」 「ふふん、甘いですね」 振り返って鼻を鳴らし、肩の髪を払いのけるような仕草をした。 「女の前じゃ男なんていつまで経ってもみんなコドモなんですよ」 その表情は、紛れもなく女。いつもティエリアにちょっかいかけに行っている(というようにしか周囲の人間の目には映らない)年相応の少女の笑顔ではなく、ミス・スメラギにも匹敵するような妖しげな笑みだ。 ティエリアの元へ急ぐの背中を見ながら、ロックオンは「敵わねぇなあ」とこぼした。それが本当に母性なのか、怖いもの知らずの好奇心なのか、慣れてからこっちはやたらティエリアを構いたがった。鬱陶しい喧しいと散々なじられながらも、一向に怯むことなく突っ込んで行く。ティエリアに絡みに行くの暴走は、ここではもはや日常茶飯事なのだ。 * * * * * 「アーデ!久し振り!会いたかったー!」 は叫びながら思いっきり床を蹴ると、無重力に任せてヴァーチェから降りて来たティエリアに飛び付いた。至極嫌そうな顔でティエリアに額を平手で押し返されると、またふわふわと後退して行く。 「俺は会いたくなかった」 「んもーいけずう」 口を尖らせて抗議する。柱に手を伸ばして後退を止めると、またニコニコしながらめげずにティエリアを見つめ続ける。嫌でもその自然に反応せざるを得ず、大袈裟に溜め息をついて見せた。 神経が太いのか何なのか、は罵られる回数に比例するかのようにティエリアに濃い、かなり濃いスキンシップを図るようになって来ている。いつティエリアの堪忍袋の緒が切れるかとトレミークルー一同はヒヤヒヤしているというのに、はお構いなしだ。半ば本能で動いているようにしか見えないことがしばしばある。 「でもやっぱ地上の方が私は好きだなー」 「分からないな」 「だって今のも地上だったら共倒れ。通り掛かった人から見ればまるでアーデが私を押し倒」 「それ以上喋るなら問答無用で撃つ」 「アーデ……!」 銃を向けられたは両手で口元を抑え、「信じられない!」と悲痛な悲鳴を上げる。が、目は笑っている。 「セーフティ外してないよアーデ!もっと徹底的に追い詰めてよ!」 「…・。貴様は本当に気色が悪い」 「えへへ、それほどでも…」 「誉めていない。勘違いをするな」 ガシャッという音と共に、ティエリアが銃のセーフティを外した。飽くまで冷静なつもりなのだろうが、背後の殺気は隠しきれない。その殺気がクセになる。透けるレンズから覗く紅い眼がこちらを見るその冷たさと来たら! じろりと睨まれ、高鳴る心臓を抑えながらはティエリアの次の言葉を待つ。するとまた大袈裟に溜息をつき、す、と銃をおろして片付ける。最後に一睨みすると、もう何も言わずにその場を離れて行った。ティエリアの気配が完全に遠のいてから、は「はあああああ」と大きく息を吐き出す。がしがしと頭を掻きながら呟く。 「うーん、今日は不発だ。物足りない」 夜這でもかけに行くかー!と伸びをしながら叫ぶと、通りかかったアレルヤが壁に頭をぶつける派手な音が聞こえた。
もっと冷たく囁いて! |