扉の開いた部屋には、最近ソレルタルビーイングに加わったばかりのガンダムマイスター、・がいた。電気もつけず、壁を背に膝を抱いてうずくまっている。体調でも悪いのだろうか。恐る恐る声をかけてみた。 「、・?」 勝手に電気をつけてやると、ゆっくりこっちを振り向く。するとその目は赤く腫れていた。どうやら泣いていたらしい。きっとティエリアに厭味でも言われたのだろう。なにせ老若男女関係なく容赦がないのだから(ある意味平等ではある)。 「おい、大丈夫か?」 「だいじょぶ、です…その、久しぶりで、ちょっと、」 「何がだ?」 「冷たくあしらわれるの…」 言って、また顔を膝に埋めてしまった。 やはりティエリアか、と息をつきながら、身を屈めての頭を半ば乱暴に撫でる。しゃくり上げて、かと思えば飛びついて小さく震え出した。マイスターに選ばれたとはいえ、やはり少女。不安や寂しさなんかもあるのだろう。加えてそこへティエリアの態度。我慢していたものが溢れていても仕方ない。 「まあ、アレだ。慣れればなんてことないさ」 はい、と小さく答えた。しかし数週間後のの姿を、トレミーの誰も予想していなかった。
もっと冷たく囁いて! 「ふへへ」 「いつもながら気持ち悪い笑い方だな、」 「ふへ、だって、だって」 「言わなくても分かるっつの」 赤くなった額をニコニコ、いや、ニヤニヤしながらさする彼女こそ、数週間前までティエリアにきつく言われては泣いていた・だ。いつからかはティエリアの厭味だなんだにすっかり慣れ、激しく間違った方向に慣れてしまい、何か違う成長を遂げてしまった。 先ほども自らティエリアに絡みに行き、鬱陶しいと一蹴された。しかしそれでもめげずにしつこく付きまとっていたら、最終的にティエリアが持っていたペンを投げられてそれが額に直撃したらしい。その証拠が、現在嬉しそうにさすっているの額だ。 「んで、見て下さいよ、これ。戦利品です」 「はぁ?」 「投げられたペン」 「返そうな?返して来ような?」 「“君に触れたものを触ったら俺まで馬鹿になる”とか言って受け取ってくれませんでしたえへへへへ」 ティエリアの声真似をしてからそんな報告を加えられた。 最初こそを気の毒だとは思っていたが、今や形成は逆転し、むしろあっちが気の毒になっている。余計ピリピリして当たられるのは以外のクルーたち。それでもこれが彼女の素なのだから仕方がない。 順応性が高いというか、なんというか。なんでこう、マイスターは個性の強いやつらばかりなんだろうかと、ロックオンは一人頭を抱えた。年長ゆえ纏める外ない訳だが、それでももう少しこちらの苦労も考えてもらいたい。のポジティブシンキングにも程がある。 「毎回毎回よくやるよ、ティエリアもお前さんも」 「誉めても何も出ないですよ、ロックオン」 「いや誉めてないから」 「ですよねー。あ、だからって罵るのはやめて下さいね。私、アーデ以外に罵られてもドキドキしませんですから」 してもらっても困る訳だが。 ロックオンはティエリアに同情した。日に日に過激さを増して行くを止められる人間は、もうここにはいない。の暴走が止まる日が来るとしたら、ティエリアが構ってやらなくなった時だろう。だがティエリアもティエリアで、対策に“を構わない”というものがないのだ。 「やー、しかし手を出して来る日が訪れるとはさすがに予測しませんでしたけどね」 「、お前なあ…」 「なんか、新しい世界を開拓しそうです」 「しないで下さいお願いします」 (2009/1/31 罵られたいの!) ← |