もっと冷たく囁いて!
〜ドMは変わらない〜
いつものように展望室でと話していると、彼女はふと「そうだ」と言い、ティエリアの方を向いた。 「アーデは一体あたしのどこがよかったの?」 「は?」 唐突な質問にティエリアは思わず頬を引き攣らせた。が、詰め寄るを振り払うこともできず答えかねていると、彼女は補足説明を始めた。 「いや、だからね、あたしたち付き合ってるじゃないですか」 「ああ」 「地上に降りたら食事ご一緒したり、いつもは手繋いだり、髪撫でられたり、ぎゅーってされたり、キスしたり、…………まあ、それ以上はまだだけど」 「……何が言いたい」 の言いたいことが見えて来ず、「単刀直入に言え」と彼女の頬を引っ張った。すると若干嬉しそうにつねったのとは反対側の頬まで赤らめ、つねった方の頬をさする。 彼女の“いじめられたい願望”は以前から誰よりもよく知っているが、付き合い始めてからもそれは健在のようだ。ティエリアは溜め息をついて眉根を寄せ、を見る。 「あたしなんて、いつもいつもアーデに鬱陶しく纏わりついて、罵られたり睨まれたりする度に気持ち悪く笑ってただけじゃんか」 「いきなり自虐か」 「正直、アーデに好かれるような素因、持ってない気がするんだけど」 「確かに」 「あっれ、全認めしちゃった」 「だが気になってしまったのだから仕方がないだろう」 これまで周りにいた人間はティエリアの顔色を窺ってばかりだったのに、彼女はそんなことお構いなしで近付いて来る。最初、あんなにも厳しくしたり八つ当たりのようなことだってしたことがあったのに、それでも懲りずにティエリアを追いかけて来た。 くるくると回る表情も、時折触れて来る手も、自分以外に見せたり触れさせたりすることがなんだか悔しく思えたのだ。一度自分に構ったのだ、ずっと自分のことだけ見ていればいい。他の男に必要以上に構われに行く必要なんてないし、自分以外の男に髪を触らせるなど論外だ。 そんな独占欲を自覚した時には、自分に驚くよりも先に行動していた。・を自分のものにしたくて動いていた。そうなればもう彼女を手放したくなくて、その思いから自然と彼女への接し方が変わった。彼女とはこんなにもまともな会話をしたことがないし、こんなにも優しく触れたことがない。けれどそれによって戸惑い気味な彼女に、どうすれば自然と付き合って行けるのだろうかと考えていた。 そこへ、冒頭の彼女の質問だ。だがその回答は先の通り長く多く、一言で返事できるようなものではない。 「僕の方こそ聞きたい。君は本当は僕と付き合いたくはないんじゃないか?」 「…付き合いたくない訳じゃなくて」 なんだその間は。 「アーデも知っての通り、あたしって筋金入りのドMだし、こう、こんなにも毎日優しくされるのは、なんか、変な感じがして」 もごもごと答える。 それではなんだ、彼女は付き合う以前のような接し方の方がいいと言うのだろうか。今思い返してみればドメスティックバイオレンスギリギリ、いや、それに分類されるような扱いをしたこともあったと言うのに、本当にこの女は変わっている。だがそんな彼女に好意を持った自分はもっと変わっているということだろうか。 「それに元々、すっごく優しくされるのって慣れてなくて」 「そうなのか?」 「ほら、言ったでしょ?戦災孤児だったって」 「…ああ」 「あっいやっアーデにそんな顔させたいんじゃなくて!困らせたいのでもなくて!えーと、えーと…」 必死に手をぶんぶん振って弁解しようとする。その様子すらなんだか可愛く思えてしまって、思わず笑ってしまう。 「あのー…アーデさん?あたし、一応真剣なんだけどなあ…」 「いや、すまない」 「だから、ね!あたしに無理に優しくしてるのなら、それはやめて、前みたいにして欲しいんだよ!」 「それは恋人の定義から外れてないか?」 「…じゃあ、こうしよう」 すっと腕を伸ばしたかと思えば、はティエリアの腰に腕を回してゆっくり抱きついた。先程までの話はどこ行ったのかというような行為に、今度はティエリアが戸惑う。 「二人っきりの時は、優しくして欲しい。でも、そうじゃない時は、前みたいなのがいい」 「難しい注文をするんだな」 「アーデは器用だから大丈夫だよ!」 「それなら僕からも要望だ」 「ん?なになに?」 ゆっくりを引き剥がすと、少し身を屈めて自分より背の低い彼女の唇を塞ぐ。すぐに離れると、今度はティエリアの方からを抱き寄せた。 自分の腕に収まるほど華奢な彼女が、出会った当初からは考えられないほどに愛しい。そんな彼女の願いなら聞かない訳にも行かないし、だがこちらの希望だって聞いてもらいたい。そう思って彼女の耳元で告げる。 「二人きりの時は名前で呼べ」 (2009/8/16 アーデが言うならもちろんです!) (ふへへへへ久しぶりに命令口調だよ!あたし感激して泣きそうでした!) (…良かったな) (というわけでいろいろご迷惑おかけしましたが一応今回は解決のようです、ロックオン) (今回“は”、だって…?) (また何かあったらよろしくお願いしますね!) (もう勝手にしろ…) 遅くなってしまって本当に申し訳ないです。カウンターで41414を踏んで頂いたサユキさまのリクエストで、ほのぼのしたドMのお話でした。おま、喜多村何ヶ月待たせんだよ馬鹿野郎というような苦情ならいつでも受け付けます、はい…(ガタガタ)そんなわけで、このお話はサユキさまに限りお持ち帰りご自由にどうぞ(´▽`)リクエストどうもありがとうございました! ← |