「もう一回言いなさい」 「え、も、もう何回目だと思って、」 「今なら許してあげる。嘘ならそうと正直に言いなさい」 「ひ、ひどいクリス!何、ヤキモチ?ヤキモチなの?実はクリスも…」 「、嘘だと言いなさい」 「嘘じゃないよ!嘘じゃない!」 もっと冷たく囁いて! それはそう、昨日のことだった。はある程度機体に関する知識はあるため、時折自分の機体くらいは整備を手伝うことがある。昨日も多忙なイアンの負荷を軽減するため、は自機の簡易チェックをハロと共に行っていた。 そこへやって来たのはティエリア。以前はあれほどを避けていたティエリアが、逆にのことをクルーに聞いて回るようになったのは最近のこと。今では当初と状況がまるで逆だ。お陰で近頃トレミー内は割と静かなのだが、それに違和感すら覚えてしまうあたり、クルーたちも相当な耐性がついたのだと、各々が思っているのであった。 そういう流れで、今日もティエリアはを見つけるなり近寄って来たわけだが、ティエリアの態度の急変具合に混乱したままのは、あれだけ追い掛け回していたティエリアをしつこく追い回すようなことはしなくなった。いや、追い掛け回すより先に気付けば追われてると言うべきか。曰く、「追いかけて冷たくあしらわれる方が楽しいじゃない」とのこと。はでそんなティエリア対策を考えていた最中に、先手を打たれてしまった。 「・、僕と付き合って欲しい」 「だからー、それもの妄想でしょ?それか白昼夢じゃないの?小説の書き過ぎで現実とごっちゃになってるんじゃ…」 友人であり仲間であるクリスに一番に報告したというのに、この仕打ちはない。さっきからクリスはを疑ってやまないのだ。そんなに信用ないかなあ、と零したに即答する始末。確かに普段あんな感じでティエリアに接していれば疑われるのも無理はない。だが最近のティエリアの態度を加算して考えて欲しい。何か前兆のようなものはあったのだ。 「あら、二人ともこんな所にいたのね」 「あっスメラギさん!ちょっと聞いて下さいよ、クリスってば酷いんです!」 「の方が酷いわよ!この子、誇大妄想も過ぎるんです!」 「ち、違うってば!信じてくれますよねスメラギさん!」 「お、落ち着いて二人とも!何があったの?」 「あたし、アーデに告白されたんです!」 「っていう妄想に取りつかれてるんですこの子!」 を上回る力でめいいっぱい否定するクリスを睨むと、クリスも睨み返し、二人の間には見えない火花が散った。そんな二人の様子を見て、スメラギは大体の事情を察したようだった。そしてまだちくちくと小さな公論を続けている二人の頭を引き離し、咳払いを一つする。裁判で審判を待つような気持ちになりながら、もクリスもスメラギの言葉を待った。 「」 「は、はい!」 「ティエリアの機嫌が良かったのはこのせいなのね?」 「え、機嫌良かったですか?」 「ええ。なんとなくだけど」 「え…じゃあ…」 「本当だって言ってるじゃない!!」 は我が耳を疑った。疑ったなんてものではない、固まった。思わず抱えていたハロを落としてしまった。ぽかんと口を開けてティエリアを見ていると、すぐにティエリアは苛立ったように睨んで来た。言ってることとやってることめちゃくちゃだよ、などと内心突っ込みつつ、どう反応を返していいのかさっぱり分からない。ティエリアが冗談を言うとは思えないし、けれどこんなことを言うとも思えない。もしやヴェーダに何か入れ知恵でもされたのだろうか。もしそうだとしたらヴェーダを疑う。 「何か言ったらどうなんだ」 「何か…って言われましても。大体、一体何でいきなりそんなことになるんですかね?」 「何か問題でも」 「問題の前に、あたし、頭の中ぐっちゃぐちゃだよ!」 「どういう風の吹きまわしだ、と言いたいのか」 「まあ、極端な話…」 こういう場で地雷を踏むと面倒そうなので言葉を選んでみたのだが、そんなの配慮も空しく、険しい顔のティエリアに段々と壁際に追いやられる。身長差もあって圧迫感を感じながら、じりじりと後退する。「えええこれ一体どういう状況!?」などという問いかけに答えてくれる人物などここにはおらず、機体を修理する機械音のせいでイアンもの状況に気が付かない(気付かれた所でそれはそれで気まずいのだが)。近付いて来るティエリアに「待って待って待って!」と制止を掛けるも叶わず、背中が壁にとん、とぶつかる。これはもう逃げ場がない。 もちろん、だってティエリアのことは好きだ。けれど付き合うとか、恋人だとか、そういうことは全く以て考えたことがなかった。ただ追い掛け回していればそれで満足だったし、ティエリアからそんな告白をされるつもりも予想もなかった。だからこれは混乱だ。困惑ではなく混乱。コンピュータで言えばエラーを起こしている状態であって、頭の中は正常な作動は不可能である。 いつものような切り返しができず、「あー」とか「うー」とかもごもごしながら必死で返事の仕方を脳内検索していた。 「え、えと、えーと、えーーーと!」 「馬鹿か君は」 「だだだってそんなの、どうやって返事すればいいかなんて、あたし知らないし!」 「…簡単だろう、そんなこと」 片手での顎をくいっと掴み、顔を上げさせた。 「“イェスかノーのどちらかだ”、って」 思い出すだけで耳まで赤くなってしまう。これまでティエリアがに見せる表情といえば、不機嫌そうだったり怒っていたり睨んで来たり、以外が向けられれば不愉快な気持ちになるようなものばかり。今日見たような優しい目など、には向けられたことがない。心臓が爆発するかと思ったくらいだ。 「ふ、ふへへ、ふへへへへ」 「?」 「えっと、えっとね、へへへへ」 「やだこの子本当に気持ち悪い!」 「ふへへ、なんかね、これが本当の幸せかなーって、思った」 熱を持つ頬を両手で押さえながらそう言うと、スメラギとクリスは目を丸くしてを見る。そして二人は顔を見合わせると、さっきまで散々酷いことばかり言っていたクリスがをぎゅっと抱き締めた。スメラギも「やれやれ」とでも言いたそうな顔をしており、どうやら二人からの信用は得られたようだ。 まだは笑いが止まらなかったのだが、クリスはとうとう「良かったわね」などという言葉をにくれた。 「睨まれるのもいいけど、ああいう風に意地悪い表情で見つめられるのもやっぱり悪くないね」 「あーもーそのコメントで全部台無しだわ」 (2009/7/19 でも時々でいいや!) (え、いや、アーデさん、本気ですか?) (これが冗談に思えるか) (思えないけど…) (ではやはり今までのはただの嫌がらせだったのか) (ち、違う違う!アーデが嫌いなわけがないよ!) (…それが返事でいいんだな?) (…はかられた…!) ← |