もっと冷たく囁いて!


〜ドMは板挟み〜










「ほーらせっちゃん、こっちお向きー」
「刹那だ。子ども扱いするな」
「お馬鹿なことして穏和なロックオン怒らせるような子はせっちゃんでじゅーぶんです。ほら、氷」
「…………」


 は冷凍室から出した氷を手際良くビニール袋に入れると、自分のハンカチで包んで刹那に渡した。

 今日のミッションはだけが留守番だったので詳しいことは知らないが、どうやら戦闘中にコクピットハッチを開けて敵に姿を晒したんだとか。ティエリアはもちろんのこと、スメラギだけでなくあのロックオンまで怒らせたというのだから感心すべきことではないのだが、なかなか大したものだと思わずにはいられない。おまけにロックオンは大事な大事な右手で直々に刹那へ拳を食らわせたらしい。一応後でロックオンの右手も診ておくか、などと思いながら氷で濡れた手を二、三度振って滴を飛ばした。

 それにしたって刹那だ。遠慮なし懇親の一撃だったのか、見事なまでに頬は真っ赤に腫れている。口の中も切ったらしく、うがいをさせると吐きだした水に血液が混じっていた。「あたしがティエリアに平手打ちされた時より酷いね!」と笑いながら言うと、刹那も若干軽蔑するような眼でを見る。しかしやはりティエリア以外に睨まれた所で何とも思わない。


「自業自得だ、刹那・F・セイエイ」
「ティエリア・アーデ…」


 まだ相当機嫌が悪いらしく、眉間にしわを寄せながら医務室へ入って来たティエリア。見えない火花を散らす二人に挟まれ、「もう言い合いしないの!」とが叫ぶ。ティエリアと刹那が銃を向け合ったことは、さっきアレルヤから聞いた。だからと言って、世界各地で同時テロが起こった今、仲間割れを続行させている場合ではない。

 刹那を撃とうとしたなど、ティエリアらしいとは思う。しかし、いつも銃を抜かせている自分の言えたことではないが、やはりどこか極端な気もする。とティエリアも仲が悪い訳ではないが、この場合はが一方的にしつこいからであるのと、に悪気がなく寧ろ好意によるものなので、まだここまで険悪にはならない。

 けれど元々刹那は進んで他者と関わろうとはしないし、ティエリアも他人を嫌っている(というのは違うかも知れないが)節がある。それに加え完璧主義なティエリアのことだ。特に最初からその存在を認めていない刹那が問題を起こしたとなれば、突っかかるなど必然と言えば必然である。も含め、マイスターズのなんと協調性のないことか。


「確かに軽率だったとは思うけど、ほら、せっちゃんにだって何か事情があったのかも知れないし…」
、君は彼の肩を持つのか」
「はい?」
は関係ない。肩を持つとか、そういう問題じゃないだろう」
「えええええ…?」
「今回は待機だったとはいえ、彼女もマイスターの一人だ。無関係ではない」
「さっきはそうだったかも知れない。けれどもう今は巻き込むような話じゃない」
「あ、え、えええええ!」


 話の主旨がずれ始め、は目をぱちぱちさせながら二人を交互に見た。いつの間にか話の中心がのことになっているのだ。確かにちょっと言い争いの激化を防ごうと口は挟んだが、中央に置かれるようなことは言っていない。「ああ、これもアーデの極端な性格だからか…」と思いつつ、当の本人、は置いてきぼりで話は進んで行く。ティエリアと刹那の言い争いは加速し、さすがのも手に負えない。なんだか少しだけいつものロックオンの気持ちが分かったような気がした(しかし反省はしない)。

 今にも二人の手が出そうになると、ティエリアはくるりとを振りかえり、いきなり胸倉を掴んだ。「ぐえ」っと何かが潰されたような声を上げると、刹那が慌てて引き剥がそうと手を伸ばしかけてくれたが、ティエリアがぎっと睨んだのでそれも叶わない。思わず、ハロさんハロさん酸素ボンベを持って来て頂戴、などと訳の分からないことを考えてしまった。

 いやいや、物を投げつけられたり平手を食らわされたりしたことはあるが、流石に胸倉掴まれたのは初めてだからリアクションに戸惑っただけだ。言うほど気管の圧迫もない。その辺の力加減は上手いらしい。さすがアーデ、などと密かに場違いにもほどがあるような賞賛をした。


「いい機会だ。聞かせてもらおう」
「乱暴はやめろティエリア・アーデ」
「大丈夫、せっちゃん。アーデ力加減分かってるか…う゛っ」
「そうか、なら答えろ…」
「は、はいいいいい!」


 言った傍から締め付けるってそんなのありですかと思いつつ、その剣幕にいつもの対応をすっかり忘れ、は指先までピンと伸ばして硬直した。引き攣った笑いで背中は嫌な汗が流れる。「こんなのあたしじゃない!」と心の中で自分につっこみながら、鋭い眼光のティエリアにただ従うほかなかった。


「毎日毎日人の周りをうろちょろするかと思えば、手のひら返したように刹那・F・セイエイを庇うとは君は一体何がしたいんだ」


 ティエリア本人は全くもって余計なことなど考えず、ただ純粋に疑問をぶつけたのだろう。けれどそんなティエリアの言葉に、と刹那は目を丸くせずにはいられなかった。
















(2009/6/8 それってジェラシー?)

(あれー?随分疲れてるっぽいですねアレルヤさん)
(うん、実はティエリアと刹那が銃を向け合って…)
(ええええ!せっちゃん羨ましい!あたしなんて最近張り手の一つもないのに!)
…)

ドMの思考
アレルヤ、せっちゃん、その他クルー→いい仲間
ティエリア→もっといじめてアーデさま!
ロックオン→いじってなんぼな保護者。