「アーデ!お願いがあります!」 「断る」 小さな紙袋を振り回して駆け寄って来るを、ティエリアはいつものようにばっさりと切り捨てた。しかしめげずに食いつくに嫌そうな視線を送りながらも、律儀にもその続きを聞く。 「あーんいけずー」 「貴様の頼みごとなどろくなものであるはずがない」 「独断と偏見はいけないと思います」 「普段の自分の行いを省みてみろ」 「あーあー、あたし難しい言葉は分かりませ、い゛っだだだだだだ!」 の頭を拳で挟んで思いっきり圧迫してやる。もういいかと思って離すと、なぜか嬉しそうに頬を赤らめる。この女には何をしても全然仕置きにならないことはもう十分分かっているのだが、ティエリアの自己満足という点でつい手が出てしまうのだ。結局効果がないのでイライラは溜まる一方ではあるのだが。 時折考える。なぜはこんなにもティエリアを構ってくるのか。彼女くらい明るい性格なら、ロックオンやクリスティナ辺りの方が気が合うはずだ。自分は必要最低限以外の接触は要らないし、コミュニケーションだってミッションに必要な程度で構わないと思っている。なのになぜ暇さえあれば嫌がらせまがいの接触を図ろうとして来るのだろう。どれだけ罵倒しても馬鹿にしても、近頃に至ってはとうとう手が出てしまっても、なぜ懲りずに自分のまわりをうろちょろするのだろう。自分といたって面白くも楽しくもに決まっている。自覚しているからそうなのだ。なのになぜ。 分からないことがあるなら調べるまでだ。疑問がいつまでも残っているのは気持ちが悪い。この謎を解くには誰かに聞くよりも本人に問い質した方が早い。そう思い、早速に聞いてみることにした。 「・」 「ん?」 「…その、なぜ君は、」 「、こんな所にいたのか」 「あれ?せっちゃん」 「刹那だ。さっき、メールを見た」 「あっごめんごめん!」 ようやく言いかけた言葉を遮ったのは、同じガンダムマイスターの刹那・F・セイエイだった。すると刹那は、ティエリアには目もくれずの持っている袋に視線を移す。 「それ、するのだろう。早くしてくれ」 「重ね重ねごめんせっ」 「刹那だ」 邪魔をされた上に二人の話が見えず、ティエリアは自然と置いてきぼりになってしまった。そして、自分とは違いと会話の成立している刹那を見て、なんとなくイライラする。 先に言ったとおり、ロックオンやクリスティナなんかは別だ。彼らは元々よく人としゃべる性格をしているから特に何も感じない。けれど刹那は自分と肩を並べるくらい積極的に人とコミュニケーションをとる方ではない。そんな刹那がと普通に会話をして、しかも普段とはどことなく表情が違う。どこ、と言われれば具体的には説明しにくいのだが、とにかく違うのだ。もまた、自分に対するのとは違う風ににこにこと笑っていて、何だか気に入らない。 「今度のは何だ」 「今のと同じだよー。気に入ったから!似合ってるでしょ?」 「似合ってなくはない」 「やーんありがとー。というわけでアーデ!あたし用事あるから行くね!」 「用事?」 「の髪を染める」 「髪だと?」 そうそうー、などと言いながら袋の中から出して来たのは二箱分の染髪料。どうやら彼女の髪は地毛ではなく染めていたらしい。これで一つ彼女の情報が手に入った。 …ではなく。 いつも刹那がの髪を染めていたのだろうか。トレミーでが刹那といる所なんて、以前一度くらいしか見たことがない(しかもガンダム談義に白熱していた)。まさか、その一回で打ち解けたというのだろうか。 ――面白くない。 そう思った次の瞬間、ティエリアは考えるより先に行動に出ていた。そう、の腕を掴んだ。当然は驚いた顔でティエリアを振り返る。 「な、なんですかアーデさん…?」 「俺がやる」 「え、ええええ?断るってさっき言ったじゃーん」 「頼みごとの中身はまだ聞いてない」 「それはそうだけど…えええええ!ちょっとせっちゃんどうしよう!アーデが髪染めてくれるって!」 「…そうか」 じゃあごめんねせっちゃーん!と、はあまり身長の変わらない刹那の頭をぐりぐりと撫で、明るく別れを告げて自分の部屋へティエリアを誘導し始めた。刹那を振り返ってみれば、鋭い目つきでこちらを睨んでいる。ティエリアは満足げに鼻を鳴らして口角を上げると、刹那は益々表情を険しくして元来た方向へ戻って行った。 邪魔者もいなくなったことだし、髪を染めてる間にでもいろいろ聞き出してやろうとティエリアは決めた。
もっと冷たく囁いて! |