「ん!」 「どうしたんだい、」 遅めの朝食を終えたリジェネの食器を運び終えてから、はあるものに気が付いた。 「リジェネ、あれって」 「ああ…珍しいねえ、ティエリアが忘れ物なんて」 |
しまった。家を出るギリギリまで最終チェックしていた来年度予算の計画書を忘れて来てしまった。十時半ともなればリジェネは寝ているだろうし、には頼めるはずがない。今日が期日だったというのに、なんという失態だ。生徒会役員や顧問には事情を話して明日に延ばしてもらうしかない。 今までこんなうっかりはなかったはずだ。とリジェネが住むようになってから、いろいろ騒がしいこともあり、余裕がない(大半はリジェネのせいなのだが)。昨夜など、リジェネの仕事が休みだったため、と共に勉強の邪魔をされた挙げ句、予算のチェックが終わらなかったのだ。それならリジェネを今から叩き起こしてでも持って来てもらっても文句など言えまい。 そう結論付けると、ティエリアは携帯を片手に廊下へ出た。 「俺だ」 『ああ、かけて来ると思ったよ。生徒会の書類だろう?』 「そうだ」 『それなら心配しなくても…』 「ティエリア!!」 電話中なのを遮って聞こえて来たのはクリスティナの叫び声。走って来たらしく、汗をかいて肩で呼吸をしている。その後ろにはフェルトもいた。 「大変…っ!」 「ちょっと待て、今電話が…」 『あっいたいた!』 耳に当てている携帯と、自分の後方から、やや時差があって声が届く。「あっ!」とまた小さく叫んでクリスティナの指差す方を、嫌な予感がしながら振り返った。 「やあティエリア」 * * * * * 不適な笑みを浮かべるリジェネに、怒りを堪えるティエリア。そしてそんな二人をわたわたしながら交互に見る。生徒会室にはその他に、アレルヤとクリスティナもいた。 ことが起こったのはほんの少し前。職員室に呼ばれたクリスティナが教室へ戻る途中、ここにいるはずのない二人がいたのだ。それがリジェネと。いや、いるだけならこんな騒ぎにはならない。問題なのは、リジェネももこの学校の制服を着用していることだ。クリスティナは二人を呼び止めるより先に、彼らを同居させているティエリアを探した。電話を掛けているにも関わらずそれを遮り、事情を説明しようとしたのだが、それより先に本人たちがティエリアを見付けたのだ。 そうして今に至る。 「はともかく、貴様までなぜそのような格好をしている」 廊下では話ができないということもあって、とりあえずとリジェネは生徒会室に連れて来られた。上質なソファに、テーブルを挟んで向かい合って座っているのはティエリアとリジェネだ。はクリスティナやアレルヤと共に、ティエリアの後ろにつくような形で立っている。 「ほら、僕って形から入るタイプだし。ちょっと前までは着てたんだからおかしくはないだろ?」 「卒業したやつが着ておかしくない訳がないだろう!」 とうとう怒りが爆発し、ティエリアは机を叩いた。それに驚きがびくりと体を震わせると、クリスティナはその肩を優しく抱き寄せた。叱られているのはリジェネなのだが、加担してしまった以上、罪悪感があるのだろう。しかしそんなとは対称的に、悪びれもせずけろっとした態度でいるリジェネに、ティエリアと以外の面々は最早呆れていた。 「あっあのっ!」 ピリピリしたティエリアに声を上げたのは、当事者の一人でもありながら、第三者よろしく離れた場所にいた。口をぱくぱくさせて何かを伝えようとはしているのだが、言葉が出て来ないらしい。ようやく「あの、これ…」と言うと、ティエリアの横に回って持っていた袋からあるものを取り出した。 「わ、わたしが、わたしがアーデさんに届けないとって、アーデさんが学校行ってからこれ見付けて、それで、それで、」 「…」 「リジェネは悪くないの!叱るなら、わたしが叱られなくちゃだめ…!」 泣きそうな声で言いながらおずおずと差し出されたのは、ティエリアが忘れて行った来年度予算の計画書。ティエリアはリジェネを庇った形になった彼女を、目を丸くして見つめた。ぎゅっと目を瞑って震える手で書類を持つに小さくため息をつくと、は窺うようにそっと目を開ける。ゆっくり立ち上がりに近付くと、彼女の頭に手を伸ばした。叩かれる、そう思ってまたぎゅっと目を閉じたが、痛みは来ない。代わりに、こつんと小突く感覚があった。びっくりして顔をあげると、困ったように眉根を寄せるティエリア。彼はの手から書類を受け取ると、ため息交じりに言った。 「あまり心配をかけさせるな」 小突かれた所から、全身に熱が回っていくような、そんな錯覚がした。 綻ぶ。 (2009/3/20) (すっかり忘れられてるね) (お邪魔ですね、私たち) (退散しようか、二人とも) ← |