「アーデさん!」
「ティエリア!」


 休日だというのにこんな早くから何なのだ。
 強引な目覚ましに、起きて早々イライラしながらベッドサイドの眼鏡を取る。するとベッド脇には楽しそうな顔をしたとリジェネがいた。二人がその手に持っていたのは、


「見て下さいアーデさん!」


 形の歪なケーキだった。














 二月十四日。世間では聖バレンタインデイ。それに違わず、この部屋でもとリジェネはまさにバレンタインを展開していた。おかげで朝からキッチンは甘ったるい匂いでいっぱいだ。


「なぜ、寝起きから巻き込まれなければならない」
「それは今日が特別な日だからだよ」
「特別?二月十四日だからか?」


 不機嫌さを露わにして聞き返すティエリアに、リジェネは「分かってないなあ」とでも言いたげに肩をすくめる。イラっとしたが、その間にが割って入って弁解した。


「きょっ、今日は!アーデさんがわたしを拾ってくれて、丁度一か月なんです、よ!」


 はにかみながらそんなことを言う。一方ティエリアはそんなことなど忘れていたらしく、の言葉にぽかんとしていた。呆気にとられたようなその顔を見て、リジェネはますます楽しそうに笑った。も少し頬を赤くしながら髪をいじる。
 そうか、もうあれから一か月経ったのか。しかしこのような区切りを祝いたがるとは、もやはり女の子らしい。ぺしゃんこのスポンジケーキ、大きさのまばらなホイップの装飾、いろんな方向を向いている苺。お世辞にもきれいとは言えないが、一生懸命作ったのだろうと思うと可愛いものだ。スポンジと睨み合い、苦戦しながらホイップを絞る姿は容易に想像できた。


「…それでこのケーキを?」
「なかなか、上手くいかなかったんですけど」
「いや」


 初めてにしては上出来だ。そう言って頭を撫でてやると、擽ったそうに笑う。すると、リジェネは何やらにやにやしながらこちらを見る。すぐにから手を離し、叫んだ。


「いいから出て行け!着替えの邪魔だ!」






特別なこと。


(2009/2/14)


(リジェネ、リジェネ)
(なんだい
(見たの、わたし)
(何を?)
(アーデさん、さっき笑っていた)
(へぇ…じゃあ今日は空からホイップでも降って来るかも知れないねえ)