あの日は雨が降っていた。生徒会の仕事で少々帰るのが遅れたが、どうせ部屋には誰もいないのだから早かろうが遅かろうが何かに支障を来すことはない。 風のせいであまり役に立たない傘に舌打ちすると、一層強く風が吹きつける。イライラしながら足を速めると、前方に段ボールが落ちていた。しかも中からは小さな何かが頭を出している。近付いて中を覗いてみれば、それは子猫だった。みゃーみゃーと小さく鳴きながら、段ボールは蓋もついていないため、栗色のその体は雨でずぶ濡れだ。酷いことをする輩もいたものだ、と子猫を哀れに思いながらも、自分も連れて帰ることはできない。 しゃがんで少し考えた後、その段ボールを持って近くの公園の土管に入れた。これで雨ざらしよりは幾分ましだろう。 「悪いが俺のマンションは動物禁止だ」 猫相手にそんなことを呟き、少々胸が痛むがその場を去ろうとする。しかし後ろから子猫はついて来る。みゃあ、と小さく泣きながら、重そうに体を引きずってこちらへ向かって来るのだ。 「戻れ!」 「みゃあ」 しょげたように頭を垂れる。その間にまた歩を進めるが、また後ろから鳴き声がして振り返る。そこに猫がいる。振り払って歩く。ついて来る。こちらが止まれば猫は止まり、歩けば猫も歩く。なんのごっこ遊びだ。 「…仕方ない」 鞄からタオルを取り出し、抱き上げて濡れた子猫を包む。するとまた小さく鳴く。 「いいか。マンションでは部屋に入るまで絶対に鳴くな。鳴いた時点で放り出す」 「みゃあ」 理解したのかしてないのか、一層嬉しそうに鳴き声を上げる。もうマンションも近いので、かわいそうではあるが子猫を鞄に入れる。なんとか子猫一匹分くらいの空間はあるようだ。子猫でよかった。 「もう一度言う。絶対に鳴くな」 すると、その言いつけを守るように、部屋に入るまで子猫は一度も鳴かなかった。 レイニーデイ (2009/1/24) (お前実は賢いのか?) (……) (もう泣いてもいいぞ) (みゃあー) ← → |