一か月ほど前から、同居人が増えた。


「むー…おはよございますアーデさん」


 まだ眠そうに目をこすりながら出て来た少女はその同居人、。栗色よりももう少し明るい色の髪は、まだ手櫛すら通してないらしくあちこち跳ねている。「なんて髪をしてるんだ」と言うと、「びゃっ!」と小さく叫んで慌てて髪を梳く。


「朝ごはんはできてる。早く顔を洗って目を覚ませ」
「あーい…」


 パタパタと裸足で洗面台へ向かう音。テーブルに皿を並べながら息をつく。
 がこの部屋に来てから毎日が慌ただしい。一人分料理が増え、一人分洗濯物が増えた。こちらの常識が通じないこともしばしばあり、戸惑うこともまたしばしば。一か月経ってようやく落ち着いて来たが、それでもまだ不慣れな点はあるのだが。


「顔洗いました。今日も元気です」
「ならいい。食べるぞ」


 はーい、と返事をして椅子に座る。すると、すっかり操作の慣れたテレビのリモコンを持ち、電源を入れる。最初に興味を持って以来、テレビのリモコン係はになってしまった。この時間帯は毎朝ニュースを見ているのだが、はちらちらとテレビを振り返るものの、その内容を理解しているのかいないのか、リアクションはない。
 もくもくと食事を続けていると、もう一人が遅れて起きて来た。


「なんだ、起きるなら起こしてくれれば良かったのに」
「その必要はないと言ったのは俺だ」
「薄情だねえ」
「いつもリジェネ、起こしても起きないじゃない」


 そうだっけ、と言うと、何かを見付けたように無言でに近付く。すると、の口元についてるスクランブルエッグの欠片をひょいと拭って舐めた。


「リジェネ!自分でとれるよ!」
「あはは、そうだね」


 リジェネを容赦なく叩きながら反論するも、楽しそうに笑うばかり。
 毎朝こんな感じだ。大体呼びたくもない親戚を呼んだのも全てはがいるから。自分と昼夜逆の生活をしているリジェネがいないと、家を空ける昼間にの面倒を見る者がいない。とっとと追い出すつもりが、結局住みつかれてしまった。以来、マイペースな二人のせいで振り回されっぱなしだ。は仕方ないにしても、リジェネは家事の手伝おうともしない。この一か月、本気で追い出そうとしたことは何度もあった。けれどその度に止められ、リジェネはを理由に嫌がり、毎回未遂に終わっている。そんな攻防が一か月続き、もう争うのも馬鹿馬鹿しくなって来たので、こちらが先に折れた。


「遊んでいる暇があったらさっさと食べろ。食器が洗えないだろう」
「ほらリジェネっ!あっち行ってよ!」


 にも促され、リジェネは洗面台へ向かった。


「毎朝毎朝、ムキになることないんじゃないのか」
「そんなことないですよ。人に見られてるのが問題です」


 じゃあ二人きりだったらいいのか。


「アーデさん」
「なんだ」
「やきました?」
「ろくでもない言葉ばかり教えるのはあいつか?」






一日のプロローグ


(2009/1/24)


(やはり追い出すしかないようだな)
(やー!わたしがさびしいのー!)
(ティエリアと違ってはいい子だねえ)
(なら二人で出で行け)