リップに隠した
が、変わった気がする。中身じゃなくて、外身が。ナッちゃんにそう言うと、「当たり前じゃない!」って怒られたけれど、何が当たり前だというのか。
「えーっと……穴空きそうなんだけど……」
うちのリビングで俺の作ったケーキを食べながら、俺のいれた紅茶を飲むを真正面から眺めていると、そんな風に言われた。嫌がられてはいないけれど、居心地は悪そうだ。
うっすらと染めた髪、両耳に空いたピアス、覚えたてのメイク、それらがどうしてもこっちこそを居心地悪くさせる。居心地悪いは違うか、なんだかそわそわして落ち着かない。
「この間さ」
「うん」
「セッちゃんとの話になって」
「いやなんで?」
まあ、その場にはナッちゃんもいたわけだけど。
「最近が可愛くてって言ったんだけど」
「ん゛っ、げほっげほっ!!何言ってんの!?」
「セッちゃんの同意を得られなかったんだよね」
「当たり前でしょ!?」
紅茶をむせたらしいがげほんげほんと激しく咳き込む。そして、おぞましいものでも見たような顔でこちらを見た。
ちなみに嘘は言ってない。ただ、正しくは可愛くなった気がする、と言ったのだ。セッちゃんは「別に普通じゃない」となんの興味もなさそうに、スマホをいじりながら返事をして来た。最近のを知らないはずだけれど、セッちゃんの「普通じゃない」は、そこそこいい評価である。全くそうでなかった場合はばっさりと切るのだから。
「私のいないところで私を話題に出すのやめてよね」
「だって俺のいないところで俺の話するじゃん」
「だってKnightsじゃん」
「だっての話できる相手なんて限られてるじゃん」
「真似しないでよ」
「そんなつもりはない~」
むくれるの口元に、一切れフォークに刺したケーキを差し出す。すると、むくれながらも大人しくそのまま食べた。なんかこういうの、付き合ってるって感じがする。
「りっちゃんって本当突拍子ない。絶対嵐ちゃんとかも思ってると思う」
「メンバーは慣れてくれてるでしょ」
本当は焦っているなんて言えるはずがない。少しずつ大人になって綺麗になっていくが、自分以外の誰かの目にとまってしまうのではないか、そんな心配をしていることも。密かな焦りに気付くはずのないは、とうとうケーキの最後の一口を食べ終えた。
じっとの唇を見つめる。うちに来た時にはつやつやだったグロスの塗られた唇が、ケーキを食べたことでどんどん剥がれていく。ああ、そういえばこういう色だったっけ、とどこか安心した。まだほんの少し、本来よりも血色のいい赤みが残ってはいるけれど。
「…あんまり早く大人にならないでよね」
「何か言った?」
「別に~」
ほんの少し疚しい気持ちでを見ていたことを、は知らない。