最近、隣の席の青峰くんが優しい。毎日、お菓子をくれる。この間はチョコレートを貰った。その次はポッキーをくれた。先週、喉が痛かった日にはのど飴をくれた。そして今、私の手の中にあるのは。 「水族館?」 「おー」 水族館のチケット。一連の流れからして、次は何かと思っていれば、水族館のチケット。もしかして青峰くんは実は甘いものが好きなのだろうか、だからお菓子を持ち歩いては餌付けの如く私に恵んでくれるのだろうか、という仮説を立てつつあったのだが、どうやら違うらしい。いきなりのシフトチェンジに私は対応に戸惑った。 「…水族館、好きなの?」 「嫌いじゃねーけど」 「暇なの?」 「暇ではあるけどよ……ってか、てめぇ…まさかほんとに…」 「私がなに?」 青峰くんは大袈裟とも言えるほど、頭を抱えて大きな溜め息をついた。背の高い人は項垂れてもなお大きい。私より30cm以上大きい彼を見上げて、私は首を傾げた。私との会話のどこに頭を抱える要素があったのやら。 「手強いとは聞いていたがよ…」 「ん?運動神経は皆無だよ?」 「そういう意味じゃねーよ」 ぺしん、と私の額を叩く。ひりひりするそこを擦っていると、「とにかく行くぞ」と言う。どこへ、と聞けば「そこだよ!」とまた怒られる。ああ、水族館のことか。…前言撤回、優しいのか怖いのか分からない。 可愛らしいラッコの写真が載っている水族館のチケット。まあ、それを無駄にするのは勿体ない。それに、水族館なんて数年ぶりだ。ちょっと楽しみになって来た。 「うん、いいよ、行こう」 「…、意味分かってんのか?」 「水族館でしょ?デートだね」 「あのなあ…」 あれ、違ったのか。また青峰くんが項垂れている。難しい人だなあ。 とにもかくにも、気分はすっかり水族館だ。チケットを眺めて笑っていると、「おい」とやけに低い声で呼ばれる。びっくりして一歩後ずさると、青峰くんは私の手を掴んで顔を覗き込んで来た。随分と近い。 「そんなこと、他の奴に簡単に言うんじゃねーぞ」 「へ?」 「お前が好きだっつってんだよ」 「へ、え?えぇえ?」 鈍感過ぎんだろ馬鹿が、と言った青峰くんは私の見間違いなどではなく、明らかに真っ赤だった。 |