私をかさないで

 思った以上に時間が経っていた。私は一人になってから、思った以上に時間が立っていたようだ。あの当時私の周りにいた人たちはもう誰一人この世にいない。唯一愛した人は私を置いてさっさと一人であっちへ行ってしまった。私だけがここに――CBに残り、その全てを任されてしまったのだ。
 あれから次の世代のマイスターもガンダムも現れた。何度も何度も入れ替わり、出会い、そして私は運良く、本当に運良く闘いの中で生き延びて来た。まるで誰かが故意にそうしているかのように、いつも私は生き残って来た。
 それは安心したこともあったが、寂しくもあり、辛くもあった。一緒に戦って来た人たちはあの人たちだけじゃないけれど、仲間と呼べる人たちはあの人たちだけのような気がする。
 けれど人間は儚い。たった一瞬を駆け抜ける生き物だ。もうここには当時の彼らの意志を次ぐ人間しかいない。私たちの何倍も短い時間を生きた彼らを、何十年経とうと忘れられずにいる。まるで昨日のことのようなのだ。この体は衰えることも変化も知らないから、時の流れなんて目に見えるカレンダーでしか確認することができない。確認はできるけれど、実感はできない。
 会いたいけれど会えない人というのは、あの人たちのことを言うのだろう。

「でもさぁ…もういいよね…?」

 ヴェーダ本体の真ん中。返事のない大きなコンピュータに向かって問い掛ける。あなたがこの中へ入ってから、呼び掛けなかった日はなかった。けれど、応えてくれる日はなかった。それでも生きてきた私。あなたの分まで、と生きてきた私。

「いいよね、ティエリア」

 当時の銃をこめかみに構える。目を閉じれば、そこにあの頃のトレミーのブリーフィングルームが見えるようだった。スメラギさん、ラッセ、リヒティ、イアンさん、クリス、フェルト、ミレイナ、アニュー、刹那、アレルヤ、ハレルヤ、ロックオン、ライル、…ティエリア。

「あ、でも、また怒られちゃうか」

 私だけが、自ら死を選ぶなんて。闘いの中でなく、自らそっちへ行くなんて。

「ごめんね」

 すぐ、そっちに行くから。そうしたらまず、何も言わずに抱き締めて。あなたの手で、私を撫でて。ねえ、ティエリア。


(2009/11/18 銃声音は覚えていない)