マーチ

「愛してる」って言おうとして、やっぱりやめた。多分、この人に「愛してる」は重すぎる。だから代わりにぎゅっと抱き締めた。息ができないほど、心音が聞こえるほど、くっついちゃうほど抱き締めた。
 以前なら引き剥がそうとしたり、舌打ちすら聞こえて来そうだったのに、今ではそれがない。どうしたんだ、と小さく笑いながら髪を撫でてくれるこの人には、もう四年前の面影などないのだ。
 誰にでも等しく優しくなったあなたを、私はきっと愛せない。それが「愛してる」と言えなかった本当の理由。たとえあなたが愛してくれても。


(2009/6/4)