記憶と言うのは、五感の内、最も多く使ったものがより色濃く残るのだと言う。視覚、聴覚、触角、嗅覚、味覚。俺の聴覚は今、たった一人のクラスメートに向けて神経が常に使われている。何をしていても何よりも耳に入って来る、たった一人の人間の声だ。

「それで昨日買った漫画が面白くてね!」

 。彼女との関係を言えば、所謂、恋人同士と言うことになる。ほんの二週間前、「部活の邪魔にはならない人間なので付き合って下さい!」と言われた日には驚いたものだ。まだクラスメートがぱらぱらと残っている教室で言われたということも、部活の邪魔にはならないと言いきったことも、何より、のようなクラスでも目立つ女子生徒に告白をされたことに。
 は俺とは真逆のような人間で、よく笑い、よく喋り、友人も多い。休み時間には自然と彼女の周りには人が集まる。俺もこの身長のお陰で目立つことには目立つが、それとはまた意味が違う。一番近い存在で言えば、高尾だ。高尾の女子生徒版というと分かりやすいかも知れない。ただ、勉強はの方がずっとできる。

「あっ、今日の帰りさ―――……」
「行く!新しくできたお店でしょ?」

 何をしていてもの声ばかりが入って来る。他の生徒の声なんて殆ど耳に入らず、けれどの声だけきれいに拾う本当に都合の良い耳だ。
 実は言うと、は高尾のことが好きなのだと思っていた。実際よく話している所を見るし、冗談やら軽口も言い合う仲らしい。だから最初は、なぜ俺なのだと思った。確かに、目立つのことは以前からなんとなく気になっていた。だが“気になっていた”程度であって、好きだとか何だとか、そういう類の感情ではなかったのは確かである。それが、あの派手な告白をされて以来、どうも調子が狂う。何をしていてもの声しか耳に入らず、気付けばを目で追っている。人の容姿など気にしたこともなかったのに、「今日は昨日と違うヘアピンをつけている」だの、「今日は昨日と逆のサイドで髪を結っている」だの、どうでも良いことにいちいち気付いてしまう。
 おかしい。何かがおかしい。「付き合って下さい」というの告白を受け、あまりの衝撃に反射的に首を縦に振ってしまった。まだあの時もさほどを意識はしていなかった。目の前で泣きそうになりながら喜ぶを前に、「おかしな奴もいるもんだ」と冷静に考察していた自分もいる。
 だが、付き合い始めてから俺たちの関係の何かが変わったかと言われれば、そう変わりはしない。も結構さっぱりとした性格のようで、放課後になれば俺を引き留めるでもなく「じゃあ私も部活行くね!それじゃ!」と言って立ち去って行く。しつこくメールも電話も来ない。じゃあ休み時間はというと、は友人たちとのお喋りに夢中だ。果たしてこれは、彼女が最初に想像していた“俺と付き合う”ということなのだろうか。首を傾げる外ない。

(直接聞いてみるか…いや、別に聞く必要など…)

 邪魔をしない、と言ったのはだ。確かに邪魔はされていない。思う存分部活にも打ち込めている。けれど、何かが違う。その何かが自分で分からないから困っているのだが、これは明らかに違うだろう。俺とは、周りから見れば何の接点もない。付き合っていると言うこと自体、知っている人間の方が少ないのではないか。現に、男友達もいるはよく遊びに誘われているようだ(ちなみに当然俺は誘ったことは一度もない)。俺の邪魔をしないと言うなら、俺もの邪魔をしないのが公平というものだろう。だから男友達との交遊関係に口出しをするつもりはない。けれど気になるか気にならないかと言われると、それはまた別の問題なのだ。
 本音を言うと、一度聞いてみたい。は何を思って俺に付き合ってくれと言って来たのかとか。男友達に遊びに誘われて本当に誘われるがまま言っているのかとか。俺からメールはした方がいいのか、何時くらいまでなら起きているのか、どういう話題を送れば良いのか、休み時間はもっと話しかけるべきなのか。だが、どれもこれも未知の領域過ぎてどこからに近付いて行けばいいのか俺には分からない。

「おーい真ちゃん、ちゃんに熱視線送ってる所悪いんだけどさ」
「別に送ってなどいない」
「じゃあ睨んでる?」
「それはもっと違う。用件は何だ、手短に話すのだよ」
「今日部活中止。なんか体育館の照明がどうとかで全入れ替えが放課後らしい。やったな珍しくオフ」

 最後の一言に何か悪意を感じる。にやにやと笑いながら笑う高尾は正直言って気持ち悪い。怪訝な顔をすると、「冷たいなー」と言った後に、突如「ちゃーん!ちょっとこっち!」と突然を呼び出す。何をするのだ、と高尾に詰め寄る間もなくは「なあに?」と首を傾げながらひょこひょこやって来た。

「今日部活なしんなった!」
「わ、ゆっくりできるじゃん!よかったね」
「おー。でさ、真ちゃんがちゃんと帰りたいって」
「なっ!?たか…っ!?」
「えっほんとに!初めてだなあ、一緒に帰るの。六時間目が終わるの待ち遠しいね!」

 ちょっと待て、俺は一言もそんなこと言っていないぞ。高尾は一体何を勝手に話を進めている。で何をそんなにはしゃいでいる。完全に置いてきぼりだ。その話が一段落すると今度は高尾がと楽しくお喋りを始める。想像だにしなかった展開に頭がついて行かず、俺はその会話に加わることはできない。いや、冷静にいたとしてもこの二人のノリに入って行くことなどできないのだが。
 あと、二時間授業がある。いや、二時間しかないと言えば良いのか。六時間目が終わったら、つまり、俺は初めてと二人きりになると言うことだ。高尾のやつ、何を考えてやがる…と忌まわしく思って見てみるが、相変わらずと話している。
 冷静になどなれるものか。最近ようやく自覚したが、俺はを随分意識しているのだ。目で追ってしまうのも、声を聞き分けてしまうのも、意識しているからだ。それに関してはもう否定できない。だがは以前ののままで、特に俺を意識している様子はない。今も普通に喜んでいた。俺は内心非常に焦ったのだが、焦る様子も驚く様子も困った様子もなく、あまつさえ「待ち遠しいね!」とこっちに笑い掛けもした。

「あ、それじゃあそろそろ五時間目だね。あと二時間がんばろ!」

 にこっと笑って両手でガッツポーズを作るとはまたせかせかと歩いて自分の席に戻っていた。その揺れる後ろ髪を見つめながら思う。なぜ、俺だったのだろうかと。

ちゃんさー、本当良い子だなー」
「…………」
「とりあえず、初めての一緒に下校がんばれ真ちゃん」

 メールだったら語尾にハートマークでもつきそうな口ぶりだ。簡単に言ってくれるが、俺はあと二時間冷静に授業を受けられる自信がない。何を話せばいい、何を話せば笑ってくれる、というかが興味のあるような話題のレパートリーを俺は持っていない。というか、そもそもは何に興味があるのだろうか。そういえば部活部活とは言っていたが、何の部活に入っているのだろうか。普段読んでいる雑誌だとか、いつも友人たちとはどんなことを話しているのかとか、俺はのことを何も知らないのだと思い知る。
 じゃあ、は俺のどこを見て「付き合って下さい」という思考に至ったのか。高尾ではなく俺にその言葉を言った理由は何なのだろうか。…のことを考えれば考える程疑問ばかりが浮かんで来る。けれどそれを全てに問うだけの勇気があるかと言われれば、ない。一歩間違えれば尋問ではないか。
 俺より少し前の席のは、午後の古典という暇は授業にも関わらずしっかり受けているようだ。黒板を見、教科書を見、時々手を動かす。そしてたまに首を傾げて辞書をぱらぱらと捲ってはせっせと板書をする―――こんなにじっくり授業中のを意識して見たことがなかったが、よく見て見ると授業を受けている姿を観察するのもなかなか面白い。
 ふと、口元が緩んだ。







ー!帰るよー!」
「ごめん!今日は緑間くんと帰るの!」
「マジで!バスケ部休み!?」
「らしいよ、ごめんねー!」
「ちくしょう、お幸せにな!!」

 大声で話している。が、友人と大声で話している。当然、よく通るの声は他のクラスメートにも聞かれている訳で、俺にはクラスメートからの視線が突き刺さる。「えっって緑間と…?」「あれ、高尾くんじゃなかったっけ?」「ていうかいつから?どっちから?」なんていう声があちこちから聞こえて来る。消えてしまいたい、と思ったのは初めてだった。
 だが何も気にすることなく鞄を持ったが俺の席へと軽い足取りでやって来る。「うわ、マジだったんだ」とショックを受けたような男子の声。そりゃそうだ、は明るくて、誰にでも笑顔で、優しくて、気さくで、人気がある。密かにを狙っていた奴もいたことだろう。俺によって打ち砕かれてしまったと言う訳だ。
 とりあえず、早くこの教室から出て行きたい。これ以上噂の的になっている現場にいるのは非常に堪える。

「緑間くん!帰ろ!」
「あ、ああ」
ちゃんまた明日なー」
「また明日ねー高尾くん」

 さりげなく声をかけて来た高尾を振り返ると、「上手くやれよ!」とでも言いたげに親指を立ててこっちを見ていた。まあ確かにお膳立てしてもらったことには変わりない。こういう急な部活のオフでもなければと下校することなんて有り得ないのだ。
 多分、の周りにも彼氏のいる友人はいて、もしかするとその友人は彼氏とよく一緒に下校しているのかも知れない。メールも電話も頻繁にして、休日にも会って―――という生活をしているのかも知れない。そういう話を聞いて、は羨ましいと思わないのだろうか。俺に不満を抱いたりしないのだろうか。何も言って来ず、とりあえずが手に入れたのは“彼女”というポジションだけで、実質、通常であれば交際しているようなことは何もしていない。それでも何も言って来ないに、欲しかったのはポジションだけなのだろうか、と一瞬頭の中を嫌な考えがよぎって行く。けれど隣を歩く俺より随分小さなの顔は幸せそのもので、笑顔、と言うよりは顔が緩んでいるように見える。

「な、何っ!?私の顔ヘンだったかな!?」
「い、いや…随分、嬉しそうに笑うなと思って」
「嬉しいに決まってるよ!初めてだもんね、緑間くんと帰るの」
「…さっきも言っていたが」
「ふふっ、何回でも言いたい」

 こっちを見上げて笑う。目がなくなるくらい、嬉しそうに。
 そう言えば、“一緒に帰る”ということだけを考えていたせいで、それ以外は全くノープランだ。こう言う時、どこかに寄って行くものなのだろうか。それとも真っ直ぐの家まで送るべきなのか。早速難関にぶち当たってしまった。高尾なら「せっかくだからどっか寄ってこっか」くらいの気の利いた一言をさらっと言いそうなものだが、俺の口からはとてもではないが言えない。すると、昇降口で靴を出しながら「あ」とは声を挙げた。

「薬局寄っていい、かな?」
「ああ、構わない」

 願ってもない申し出だった。このままただの家まで、となると時間が限られてしまう。せっかくオフになったというのに、そうだ、この機会にさりげなく色々と聞いてしまえば良い。尋問にならないよう、そう、飽くまで自然にだ。

「…は」
「うん?」
「何の部活をしているのだ」
「あ、そっか、言ってなかったね。料理部だよ。お陰でほら、洗い物で手がタイヘン」

 ほら、と言って手のひらをこちらに向ける。俺よりもずっと小さい手が、洗剤で荒れて大変なことになっている。女子の手と言うのは、こんなに小さいものなのだろうか。まじまじと見たことがないから分からない。女子の手のひらの平均サイズも分からないが、何となくその小さな手を、可愛いと思った。
 しかし、こんなの女子の手じゃないよねー、と苦笑いしながらさっと後ろに手を隠す。そこからまた、沈黙。いつものとは違い、どこか落ち着きなくそわそわしているように見える。視線はあちこちを彷徨っているし、俺もそれは同じなのだが、時々視線が合うと、「へへっ」とか言って笑う。笑うのだ。
 聞きたいことを聞けばいい。話したいことを話せばいい。こう言う時、俺から話さなくてどうする。最近ようやくを意識し始めたところではないか。気になることなど山ほどあるではないか。教室で「付き合って下さい」と言って来た時、は相当勇気を振り絞ったに違いない。そのことを今更になって実感する。今度は俺が言わなくてどうするのだ。こうしている間にもの寄りたいと言う薬局は近付いていると言うのに。

「一つ、聞きたいのだが」
「う、うん」
「俺からのメールは、その…」
「うん」
「足りなくはないか?」
「へ?」

 立ち止まり、驚いて見せる。何のことだ、とでも言いたげに目を丸くした。

「まさか、どんなメールだって嬉しいよ。それに私も結構メールストッパーでよく怒られるし…」
「そう、か…意外だな」
「えーっ、緑間くんの中で私ってどういう印象なの!」

 今度はけらけらと笑う。ころころと一瞬で表情の変わるは、今度は随分楽しそうだ。
 なるほど、ではこれまでのペースでメールのやり取りは問題ないと言うことだ。内容もこれまで通りで良い、ということでいいのだろうか。部活や授業のことなどしか書いていないのだが、これで良いのだろうか。
 それで良いと言われれば今度は逆に不安になって来る。が良いと言うのだから良いのだろうが、が嘘を言っているとは思えないのだが、無理をさせていないかとか、我慢させていないかとか、一つ心配になると次から次へと心配になって来る。
 また無言になった俺の心中を察してか、今度はが口を開く。

「あのね、友達とか色々言って来るけど、私、気にしてないの」
「色々?」
「私はバスケしている緑間くんが好きだから、かっこいいから、だから今のままで…今のままがいいの。多分、緑間くんって真面目だから、なんか色々考えちゃってるんじゃないかなって思ってたんだけど…あっ、違ったらごめんね!」
「いや」

 その通りだった。疑心暗鬼になってみたり、悩んでみたり、心配してみたり、気がつけばのことを考えていた。の友人に言われた“色々”というのは、俺が悩んでいることそのものと大差ないだろう。節介な友人がと俺の仲についてあれこれ口出しして来るのかも知れない。事実、何もしてやれていない。それでもは俺で良いと言ってくれるのか。碌に構ってやれないし、今日だって高尾の助けがなければこうして二人で帰ることもなかった。

の言う通りだ。俺はここ最近、ずっとのことばかり考えていた」
「へ、えっ!?」
「形ばかりの交際で、を我慢させているのではないかと」
「そ、そんなことないよ!」
「俺より高尾の方が似合うのではないかとも…」
「高尾くんはただの友達…ていうか…あのね、笑わない?」
「ああ」

 または少し頬を赤らめながら視線を右へ左へと彷徨わせる。もう既に、薬局の駐車場にまで辿り着いていた。他の客の邪魔にならないような場所で、俺たちは初めて向かい合う。こんな風にちゃんと話すのも初めてで、改めて向かい合うとじわじわと緊張が膨らんで来る。それはも同じらしく、いつもの明るい笑顔ではなく、はにかむように微かに笑っている。照れている、のだろうか。
 今すぐにでもを抱き締めたい衝動に駆られる。こんな気持ちになったのは初めてだ。ドクンドクンと心臓の音が喧しい。にまで伝わるのではないかと言うほど、鼓動が速く大きくなる。まともに話したこともなかったのに、きっと今、話を止めて抱き締めてしまえばは困惑する。それにが言いたいことが何かも知りたい。

「高尾くんには、手伝ってもらってたの」
「手伝う?」
「緑間くんに近付きたくて…どうしたらいいか、ずっと相談してた。緑間くん、高尾くんと同じ部活だし、仲良いから…。私なんてただのクラスメートだし、緑間くんとは全然違うタイプだから、どうすれば認識してもらえるかな、とか」
「…………」
「そしたら、“回りくどいことするより直球で行け”って言われちゃって」

 ごめん、あの時は迷惑だったよね。俯きがちになるの目には、みるみる涙が溜まって行く。待て、なぜそこでが泣く必要がある。俺の発言が何かを傷付けてしまったのだろうか。必死でフォローの言葉を探すが、なかなか出て来ない。終いには、とうとうは泣き出してしまった。ぽろぽろと大粒の涙を零し、アスファルトにぱたりと落ちた。
 どうするべきか、どうしたら泣きやんでくれるのか、今の俺ができることは何だ、は何を望んでいる―――言葉より先に、手が出ていた。くしゃりと、指通りの良いの髪を撫でる。きっと毎日丁寧に手入れされているのだろう、の髪はとても触り心地が良い。きちんとセットしたのだろうが、俺が少し乱雑に撫でてしまったせいで、の頭のてっぺんは髪がぐしゃぐしゃになってしまった。けれど、不意の行動に驚いたせいか、の涙は望んだ通りに止まってくれた。

「迷惑などではない」
「へ…」
の告白を、迷惑だと思ったことなんて一度もない」
「ほんと…?」
「かなり驚かされたが…それだけだ」
「そ…っか…」

 ごしごしと思い切り目元を拭う。そして、ようやくいつものように笑った。まるで、花が咲いたかのように。その笑顔に、また一度だけ大きく心臓が跳ねる。この顔が見たかったのだ、と思う。いつもの友人や高尾に向けられているこの笑顔を、真正面から見たいと最近はずっと思っていた。羨ましいとさえ思った。嫉妬するだけの行動を起こしていない自分には、嫉妬する資格もないと思っていたのだ。それが今、目の前にある。花が咲いたような、太陽のような、明るい笑顔がある。
 この笑顔が好きだと思った。それに似合うよくとおる明るい声も、仕種の一つ一つも、何もかもが好きだと、今やっと思った。好きでなければ意識しない。意識すると言うことは好きだと言うことだ。
 ずっと見たかった笑顔を前にして、とうとう俺の方が我慢できなくなった。

、抱き締めても良いか」
「へっ!?」
「駄目か」
「だっ駄目じゃ、ないけど、えっ、いきなりだね緑間くん!?」
の笑った顔をみたら、したくなった」
「わ、わわわ…っ!」

 壊れ物を扱うかのように、そっと引き寄せる。あのが俺だけに見せる初めての動揺。華奢な体は、ちょっと力を入れれば折れてしまうのではないかと言うほど。随分と身長差もあり、きっと後ろから見たらの姿は俺に隠れて見えないだろう。その身長差すら、愛しいと思える。
 少し力を入れると、控え目にも手を伸ばして、俺の背中に手が回る。少し震えているようだったが、嫌がられているのではないようだ。
 相変わらず心臓は早鐘を打っていて鳴り止むことがない。心なしか体温も上がったようだ。それはも同じのようで、そっと離して顔を覗き込んで見れば真っ赤になって固まっていた。それを見て俺もまた顔が熱くなる。

「な、何してんだろうね、私たち」
「あ、ああ…」
「でも」
「な、なんだ」
「嬉しい」

 もう一度花が綻んだ瞬間、今度は力任せにを抱き寄せていた。
 記憶と言うのは、五感の内、最も多く使ったものがより色濃く残る。視覚、聴覚、触角、嗅覚、味覚。俺は今、五感の内いくつ使っただろうか。






(2014/06/30 「ぼくのダイヤモンド」へ提出)
Design and Title...のり太さん