最近、隣の席の奴がやたらうるさい。 「ねえねえ火神くん、身長いくつ?」 「好きな食べ物なに?寧ろ嫌いなものある?」 「いつもはどんな音楽聴いてるんですかー?」 「好きなテレビ番組何?やっぱりバスケばっか見てるの?」 「ねえねえ火神く、」 「うるせーーーー!!」
今月初めの席替え。これがそもそもの始まりだった。それまでは特に接点のない女子、。まあそんな女子もいたな、程度の認識で、いつも仲の良い友達とつるんでいるような、いわゆるどこのクラスにもいるような特に目立つ所のない女子だ。それが、隣の席になった途端ものすごい質問攻めに遭うようになった。こいつ、こんなコミュニケーションスキル隠し持ってやがったのか、と少々大分かなりドン引いている、俺は。 今月からよろしくね、と最初に挨拶をされた時は普通だった。うちのクラスは二カ月に一回の席替えのため、二ヶ月間はお隣さんという訳だ。別に、俺はに何もしていないし、アピールしたつもりもない。まあこの身長くらいは目立って仕方がないが、バスケやるには身長は高いに越したことはない。だが女子平均身長のからすればそれはもう興味の対象となったらしく、「何食べてそんなおっきくなったの?」から始まり、今に至る。 「私もう身長止まっちゃったー」 「そりゃ女子はそうだろ」 「もうちょっと欲しかったなあ…165センチとか」 「それ女子じゃ逆に目立つぞ…」 「いいのー!」 は150センチ台半ばで、俺をちらりと見る度に「身長分けて欲しいなあ…」と呟く。もっと小さい奴だっているんだから、はそれで丁度いいんじゃないのか。ぶすっとしたを見るとまるで小学生のようだ。 そんな不機嫌な様子から一変、「あっそうだ!」と何か閃いたかのようにがばりと起き上る。キラキラとした目でこちらを向く。なんだか嫌な予感がした。 「男子バスケ部ってマネージャーいるの?」 「や、いねぇけど…」 「募集は?」 「いや、知らねぇ」 「はい!立候補します!」 右手をぴんと高く上げてそう宣言する。しかも募集してるかどうか知らないと言ったばかりで立候補されても困る。うちの部活を仕切ってるのはカントクとキャプテンだ。あの二人に聞いてみないことには……って、いやいや、何でこいつの立候補を受ける前提で考えているんだ、俺は。 そもそも、があの体育館にいる所を想像した。…できない。確か聞いてもないのに中学は手芸部と料理部を掛け持ちしてましたとか言ってたし、体力テストは最低ランクだと言っていたし、スポーツは全然見ないと言っていたし、そんな奴が一体何がどうなってマネージャーをするというのだ。マネージャーをするということは、その競技の知識だって要る。体力も要る。 「…、バスケのルール知ってるか?」 「普通にボールが入ったら一点!あとナントカってとこから入れたら三点!」 「…………」 「だ、誰だって最初は素人だよ!」 「いやまあ、そうだろうけどよ…」 そんなもんだろうと思った。寧ろスリーを知っていた事自体が奇跡のような気がする。呆れていると、やけに真面目な声では話し出す。 「例えば洗濯とか、掃除とか、飲み物作るとか…そういうのってルール知ってる必要あるの?」 「は?」 「私、バスケ部の詳しい事情は知らないけど、うち新設校だし部員少ないし、雑務って一年部員とかに負担行ってるんじゃないの」 「まあ、ないことはない…か」 「でも、部員だったらそういうことせずにちょっとでも練習した方がいいじゃない」 意外だ、まともな意見がから飛び出すとは。確かにその問題はこの間先輩たちがこそこそと話していたような気がする。これまではなんとかやって来たけれど、この先もっと練習がハードになればどうかは分からない。そんな時、ちょっとした雑務や手伝いをしてくれる奴がいれば―――。 いや、でもだしな、という考えが頭から離れない。目を見れば真剣に考えているのは分かるが、経験も何も、スポーツの一つもやったことない人間を果たしてカントクが承諾するのかどうか。しそうな気もするし、しないような気もする。のやる気次第かもしれないし、即却下かも知れない。カントクの考えは俺だって読めない。 「、それ本気なんだな」 「私はいつだって本気だよ」 「…とりあえず、カントクに聞いてみっか」 「え!?ほんと!?ほんとほんと!?」 「ほんとだから身を乗り出すな!」 途端に目を輝かせる。いやまだ聞いてみると言っただけではないか。なんだこの喜びようは。ちょっと相手にしただけでこれだけ喜ぶ奴がいるか、普通。元気な奴だな、と思いながら横目でを見る。 「それにマネージャーになったら火神くんの勇姿を毎日拝めるしね!」 やっぱカントクに相談するのやめようかな。 (2014/06/12 Thanks...mattarihonpo) |