見上げるほどに、大きい。私が青峰くんに初めて出会った時、威圧感しか感じなかったことは今でも覚えている。とはいえ、私も女子の中では身長は平均的。決して私が小さいのではない、青峰くんが大きいのだ。青峰くんはやたら私に「ちいせーな」なんて言って来るけど、それはカチンと来たりもするけど、そう言いながら大きな手で私の髪をくしゃっと撫でる所は好き。そんなことされると、私はたちまち黙ってしまう。
 時々、青峰くんを見ていると、私もモデルさんみたいに170cmくらいの身長があれば釣り合うのかなあとか、やっぱりこんな小さい子よりも背の高い子の方が好みなのかなあとか、本人に聞かなければ分からないことをぐるぐると考えてしまう。けれど、もし本当にそれくらい背が高かったら、「今日もちいせーな」なんて毎日声をかけてはもらえないだろうし、せっかくまとめた髪を朝一番青峰くんに崩されることもなかったのかも知れない。そう思うと、この150cm台の身長に感謝している部分もある。
 それでも、どれだけ毎日しゃべる機会があっても青峰くんは遠い。いつまでもどこまでも、私にとっては遠い人。私なんかが見上げても視界に入らないだろうし、私が手を伸ばしてもこんな短い腕では届かない。全然違う世界の人なんだって思い知らされるから、だから、バスケをしている青峰くんを見るのはあんまり好きじゃない。こんなこと言ったら怒られるかな、嫌われるだろうな。いつでも全力で応援できなければ、青峰くんの横にいる資格なんてきっとないのだ。
 好きなのに、という気持ちと、好きだけど、という気持ち。どうしても私の中には消せない黒い気持ちがあるから、いつまで経っても青峰くんをまっすぐ見ることができないのだろうか。身長だけの問題じゃない、ああ、そうだ、これってもしかして。



嫉妬なのだろうか。






 ちいせーやつだと思った。いや、別に一際小さいやつではなかったんだ、は、は。きっと、最初に目に留まったのがだっただけ。そもそも、そんな平均的な身長のやつが目に留まると言うだけで、俺にとってはもう“その辺の女子”ではなくなった訳だが。
 の歩いてる後ろ姿はペンギンみたいだ。ただ歩いてるだけなのに、なんか一生懸命って言うか、ちょこちょこ歩いてるって言うか。思わず後ろから腕を引っ張って思いっきり抱きしめてやりたくなるが、その腕に触れる一秒前にいつも我に返る。それで、結局「は今日もチビだな」なんて悪態しか口から出て来ない。高校生にもなって天邪鬼かよ、と自分でも馬鹿みたいに思う。
 けど、仕方ないだろ。かわいーんだよ、が。からかうと150cm半ばのちいせーがこっちを見上げて睨んで来る。けど、くしゃくしゃと髪を乱してやると途端に顔を赤に染めて黙り込む。あんなことされてどきりとしないとでも思うのかよ、。その顔が見たくて毎日飽きもせず、馬鹿みたいに同じ言葉ばかりかけ続けているなんて。が知ったりしたら笑うだろう。
 あんなにちいせー癖に意外としっかりしてる。休憩時間、友達と喋っている時にたった一人だけ大人みたいに綺麗に笑う。上まで届かないのに一生懸命黒板を消そうと震えながら背伸びをする。顔を赤くするも、睨んで来るも、…最近考えるのはのことばかりだ。それなのに、はそうじゃないという現実があるんだよな。
 この間、がいつもつるんでるやつらと楽しそうに話していると思えば、たちの机の真ん中にはある一冊の雑誌。騒いでいた問題のページには俺も良く知る人物、黄瀬が映っていた。「やっぱり黄瀬くんが一番かっこいいよね、!」「そうだねー」とかなんとか言ってたっけか。女って言うのはやっぱりああいう人当たりと愛想の良さそうなやつが好きなのだろうか。俺、逆だし。
 なんか腹が立ったから後ろからの髪を引っ張ってやったら「いたーい!!」と涙目になりながら俺を睨む。の目が俺を向いた時、安心すると共に悟ったんだ。



嫉妬ってやつかって。




(2013/05/04)
連載ドリーム検索様の10周年企画、リンクラリー参加作品でした。