私の彼は、簡単に言うとデカイ・コワイ・黒い。その威圧感たるや学年一…いや、学校一の青峰くんだ。私も出会った当初はびくびくしてばかりで、会話どころかろくに目を見ることもできなかった。
 付き合ってすぐ、青峰くんは部活があるにも拘わらず、それをサボって私を無理矢理引っ張って帰ろうとしたことがあった。その方法に驚いたことは今でも忘れられない。まるで漫画の中のように、本当に襟の後ろを引っ張られたのだ。「ぐえ゛っ」という女の子にあるまじき声が出て、ようやく自分のしたことの重大さに気付いたらしく、私を振り返って焦り出した。彼なりの照れ隠しだったようだ。
 そんな青峰くんを見て、私の中で青峰くんの印象が変わり始めた。青峰くんも焦ったり慌てたりするんだって。どうやら青峰くんも女の子と付き合うのは初めてでどうすればいいのか分からなかったらしい。それで、手加減も分からず思いっ切りやってしまったと。けれどそれ以降、青峰くんはあんまり私に近付かなくなってしまった。一緒に帰るにしても、休み時間にしゃべるにしても、私と青峰くんの間には奇妙な隙間がある。最初は単にパーソナルスペースの狭いだけなのかと思ったが、そういう訳ではない。私よりもずっと近い距離で青峰くんと接している人はたくさんいるのだ。
 もやもやした。話す内に、過ごす時間を重ねる度に、私は青峰くんを好きになって行ったから。目が合うとすっと逸らす仕種も、私が笑うと目を細めて少しだけ笑う所も、放課後になると私の席まで来て「かえっぞ」とかけてくれる声も。いつからか、その全てにどきどきするようになっていたのだ。その矢先ぶち当たった、青峰くんとの距離。隣を歩いていて、あと少しで触れそうな手がもどかしい。あの手に触れられたら、一体どんな気持ちになるのだろう。手を引かれたい。髪を触られたい。頬に触れられてみたい。そしてその先の感覚を知ってみたい。青峰くんの手の温度や大きさを知りたい。けれどもしそれを言ってしまったらどうなるだろう。青峰くんにはしたないって思われてしまったどうしよう。ワガママだって思われてしまったらどうしよう。そう思うと今日も私は青峰くんの手のひらを掠めることもできないのだ。、と名前を呼ばれる度、こんなにも胸は痛くなるのに。


tachy


(2013/04/13)