この世にはいろんな色があって、この世にはいろんな物がある。それは至極当然で、当たり前だ。そして同じように当然、いろんな人がいる。私の大切な人、必要な人、嫌いな人、苦手な人。 「昔、リーマスと出会った頃ね」 「うん」 「この世に二人だけだったらいいのにって、思った」 「それじゃ生きていけないよ、僕ら」 「そうなんだよね」 「うん…」 「………うん」 秋の風の匂いがする。どこか寂しさを含んだ風は、私たちの沈黙を余計寂しく彩った。日差しは和らかく、目を瞑れば眠ってしまいそうだ。尤も、今の時期こんな所で居眠りなんてしたら風邪をひくこと間違いないのだけれど。 それでも、背中合わせのリーマスから伝わって来る体温があまりにも温かくて、私はついうとうととしてしまう。そんな私の口からは、寝言のように言葉がぽろぽろと零れた。 「考え直したの」 「へぇ」 「やっぱり二人だけじゃ生きていけないなって」 「うん」 「例えば、私はリーマスだけで良くても、リーマスは私だけじゃだめでしょ?」 ジェームズも、シリウスも、ピーターも、リーマスには必要だから。 本当にこの世に二人だけになってしまたっとしたら、まず食べて行くことができない。でもね、それでも誰にも邪魔されることなく生きていけるのなら、私はそれで良いと思った。 だから駄目なんだね。 私はきっと、いつまで経っても純粋にリーマスを愛することなんてできない。口に出さないだけで誰よりも寂しがりなリーマスを、心の底から愛することは、きっとできないんだ。どこかしら歪んでしまうから、リーマスの望む愛を、私は与えることができない。 「このまま溶けて一つになれたら、なんて、上手いこと言う人がいるもんだ」 「え?」 「には僕が無欲に見えた?」 「私ほど欲張りじゃないでしょ」 「…もまだまだだなあ」 溜め息をついて肩を竦めるリーマス。むっとして後頭部をごつん、とリーマスの後頭部にぶつけてやった。「痛!」と叫ぶと、頭を抑えて背中を離す。 途端、私たちを裂くように冷たい秋風が吹き抜けて行く。 今、離したらリーマスが二度と戻らない気がして。 「?」 「いかないでよ」 「どこにもいかないよ」 「リーマスがいないと生きられないようにしたのはリーマスなんだから、いなくならないでよ」 二人きりで生きて行くなんて、きっと無理だ。永遠に叶わないことだ。 リーマスがリーマスの言う通り欲張りなのだとしたら、尚更。私はリーマスの欲しいものの一つに過ぎないのかも知れない。そうなればいよいよ、私が一方的に好きなだけ。 私だけを欲しがってよ、私だけを見てよ、リーマスも私がいなければ生きられないって言ってよ。 それでも、リーマスは言わない。頭の悪い私とは違って、舐め合わずに寄り添って生きて行ける道を探すひとだから。私とは違う、私とは違うんだ。 「いなくならないよ、がここにいるから」 私の手を、後ろ手に探しあてる。重ねられた手は、私の小さな手なんてすっぽりと隠れてしまうほど大きい。 ああ、そうか。違うからこんなにも欲しくなるんだね。だからこんなにももどかしくて、歯痒くて、全部が欲しくなるんだね。 「本当?」 「あと、が思ってるほど綺麗な人間じゃないってことも言っとく」 「…良いよ、それで」 だって、私だけが汚いのはアンフェアでしょう?いくら違うからこそ惹かれたって、共通点もなければ傍にはいられない。だから、もっと汚くなって良いよ。私のために汚れてよ。もっと欲を口にしてよ、私みたいに。 「それで、リーマスも私と二人だけだったらいいのに、て思ってくれたらいいよ」 「はは、笑えないよそれ」 自分でも思うの、私はやっぱり頭が悪いんだって。 だってね、それでもまだ、二人で孤独死できたらいいのに、なんて思う私がいるの。 穏やかな灰色の 空の下へ、 (本当に馬鹿だなあ、そんなの僕だって同じなのに) (でも言ったら、それが過ちだと気付いた時に君はもう戻れないだろう?) (馬鹿なほど優しい君が、僕を捨てられなくて) (2011/10/27) |