「不本意なの」 放課後、任せられた委員の仕事をしながら私は不満を吐き出した。目の前には、その仕事を見学しているだけのクラスメート、総司。手伝うわけでもなく、私がプリントと睨めっこしている間も携帯をいじったり外を眺めたりしている。 「いきなりどうしたのさ」 「私は私の意思で彼氏を作らないのに、それは僻みだって思われるの」 「放っておけば?」 「勝手に哀れに思われるのが許せないの!」 ダン!と机を叩いても、総司はちらりと私を見ただけで別段動じる様子もない。私の話になど興味がないかのようだ。…大体だ、誰がいつ誰と恋をしようと付き合おうと勝手ではないか。こういうのは縁とタイミング。今は要らないったら要らないのだ。興味がない。 「悔しいの?」 「そういうのじゃない」 「見返してやろうよ」 「いやいや私の話聞いてる?しかもなんで誘う感じなの」 「だからさ、僕と付き合ってみない」 「いやだから私の話を……………………は?」 にこにこにこ。引き攣る私とはまるで正反対、機嫌よさそうに笑う総司は何を企んでいるのやら、全く想像がつかない。ていうか、なんで総司と私だよ。さっき要らないって言ったばかりじゃない。こいつ本当に人の話聞いてないな!あの土方先生が手を焼く訳だよ!ちょっとは(一応)友人(らしい)斎藤くんを見習ったらどうなんだ。ていうか、なんで私だよ(あれ二回目?)。 「総司が女に困るようには思えないんだけど」 「僕を馬鹿にしてるのか勝手に卑屈になってるかどっち?」 「いやだって女の子に苦労しないでしょ?」 「うん、が僕にどんなイメージを持ってるかよく分かったよ」 とか言いながらなんで楽しそうなの。いつもだったらここで最高に不機嫌になりそうなのに、むしろ最高に機嫌がいい。どういうことなの、槍でも降るの。…そんなことを考えていると、総司は不意に携帯を閉じ、それを半ば乱暴に鞄に放り込む。そしてそのままその手で私の髪を撫で、頬に触れる。どういうこったい。 「大事にするよ?」 「頭打った?」 「信用ないんだね」 「だって総司だし」 「どういう理屈なわけ」 「クラスメートでしょう?」 そっか、そうだね。頷いて私から手を離す。やたら手つきがやらしくて不覚にもちょっとドキドキしてしまったではないか。全く私の心を弄んでどうしてくれよう!まともに顔が見られないでしょうよ!…必死で平静を装いながら、私は心底叫んだ。しかしそんな私の胸中なんてまるで知らないとでも言うように、今度は後頭部に手を差し込まれたかと思えば温かいものが唇に触れる。それが所謂キスという行為だと認識するまで少々時間を要した。 「ん……っ、ぅ、っはぁ、…っそう、んん…っ!」 認識できたかと思えば、名前を呼びかけたその隙をついて舌が滑り込んで来る。歯列をなぞって舌を絡められると、頭がくらくらして来た。抵抗できずされるがままの私は、行き場をなくした手で思わず総司の制服の袖を掴んだ。何が何だか分からなくて薄く目を開ければ、極至近距離にきれいな顔があって、反射的に再度ぎゅっと目をつむった。 「ん、むぅ…っ、ふ…、…………って、最低だよあんた何してくれてんの!?」 「僕、昔から欲しいものは欲しいんだよね」 「わけ分かんない!私のファーストキス返せ!!」 「うん、だからのファーストキスもも欲しいってこと」 「ワガママ王子か馬鹿っ!!…………って、はァ!?」 ちょっと待て、私が怒り狂ってるっていうのに何を言ってるんだこのゴーイングマイウェイは!悉く人の話を聞かない、ファーストキスがどんだけ大事か分かっているのか!いろいろ順番が違う順番が! もう反論する気も起きず、何か哀しくなって来た私は机に突っ伏した。その瞬間にぼろぼろと涙が溢れて来る。なんだよもう、なんで総司に泣かされてるんだよ私。 「ごめんね、でも誰にもあげたくなかったから」 「一生の汚点だよ」 「そこまで言われるとさすがに傷付くんだけど」 「嘘だ」 「鈍いなあ、僕は一度だってをただのクラスメートだなんて思ったことないのに」 うるさいよ、回りくどいんだよ、もっとはっきり言いなよ、私は馬鹿なんだよ。ぐずりながらそう文句を垂れると、総司はまだ突っ伏している私の頭を撫でて、申し訳なさそうな声でぼそりと言う。 「でも君が好きなんだ」 「総司そんなキャラじゃない」 「うん、なんでだろうね。君相手だと僕も調子が狂う」 「あとやって良いことと悪いことがある。順序も踏まないと許せない」 「責任とるよ」 「どうやってよ」 まだ伏せたまま目だけを覗かせて総司を見ると、困ったように笑って私の両目の涙を拭った。さっきまで無茶苦茶やってた癖に、いきなり優しくするなんて卑怯だ。どこで覚えた技だよばかやろう。そんなことで私がぐらつくとでも思っているのか。 「初めてが僕で良かったって思わせてあげる」 「…………ばーか」 「がそう言う時って照れてる時だよね」 「あーもう黙っていればいいのに!」 ぐらついて悪いか!こちとら総司のせいで情緒不安定なんだよ! 私の叫びはどれ一つとして表出されないまま、全部は総司の手中に収まってしまった。明日から私、一体どうなるの。 (2010/12/09) (2011/1/3 加筆修正) |