斎藤先生


 もしも斎藤先生がこの日記を見つけてくれたなら、一つだけ我儘があります。どうか私のことを忘れないでいて下さい。酷なことを言っているのは分かっています。斎藤先生に恩返しをするはずの私が、斎藤先生を苦しめることになるであろうことも分かっています。けれど、斎藤先生は優しいですから、きっとお願いすれば叶えてくれるのでしょう。我儘でごめんなさい。けれど、私は寂しいのです。ほんの僅かしか斎藤先生と過ごすことはできませんでしたが、私が斎藤先生を慕うには十分でした。斎藤先生に忘れられてしまうことは、きっと何よりも悲しい。これから斎藤先生は誰かと添い遂げるかも知れません。それでもどうか、私のことも忘れないでいて欲しいのです。それが無理でしたら、この日記の先を捲らずに焼き捨てて下さい。ここから先を読めば、斎藤先生は私を重いと思われるでしょう。読んで後悔なさる前に、この日記の存在を、そして私を忘れてやって下さい。もしそうだとしても、感謝しこそすれ、私が斎藤先生を恨むことなど万に一つもありません。

 斎藤先生。先生が私の名を、私をと呼んでくれることは、私の何よりの幸せでした。斎藤先生がこれから先どのような道を進もうとも、私はきっとどこかから斎藤先生を見守っています。








終わり

(2011/1/23)