負けず嫌いというのは、時に損をするものだ。すなわち、意地っ張り。思ったことを素直に言えない、それは「ありがとう」とか「ごめんなさい」とかだけではなく、「好き」も一緒。「嫌い」なら喧嘩の時に何度でも言ってしまえるのに、肝心なことだけ言えない。でもそれはどうやら、私だけでなく向こうも同じらしい。


「…っは、長いんだよばかっ!!」
「ふん、の息が短いだけだろう」
「んな…っ!」


 ティエリアの自室、つまり密室に二人きり(しかもベッドの上…いや、端に腰かけているだけだけれど)。恋人であればキスの一つや二つおかしいことではない。けれど私たちには雰囲気の欠片もない。不意打ちで唇を押しつけられたかと思えば、真っ赤を通り越して真っ青になるほど離してくれない。角度を変える時に一瞬だけ数ミリ離れるも、その間隔は気まぐれで息を継ぐ暇すらない。酸欠で私を殺す気かこの人は(なんて重い愛ですかそれ)。


「大体、恋人に対してその馬鹿にしたような視線はないんじゃないの?」
「馬鹿にしたつもりはない」


 嘘つけ。そう盛大に心の中で突っ込んでやった。
 仮にも、仮にもだ。私だって女の子なのだから雰囲気というのはとてつもなく重要な問題である。こんなことを言ったらまた「君は今いくつなんだ」と小馬鹿にされるのだろうけど、女の子は何歳になってもロマンチックに憧れる生き物なのだから仕方ない。いや、全ての女の子がそうとは限らないけれど。とにかく結論としては、こんな我慢大会のようなキスは嫌だ、という話だ。そりゃあソレスタルビーイングに休日なんてないし、地上の平和なカップルのようには行かないことくらい分かっている。けれど私たちなりにもっと、恋人らしい時間を持ったっていいのではないだろうか。
 尚も私が頬を膨らませてティエリアを睨みつけていると、何が面白いのか向こうを向いて笑いをこらえるように肩を震わせた(こんなにもこんなにも悩んでいるというのに失礼な)。私は悔しさと憎らしさが募りに募って、ティエリアの肩を引っ張ってこっちを向かせる。そして制服の胸倉を掴んで引き寄せると、今度は私から強引に唇を押しつけた。びっくりしているティエリアに体重をかけると簡単に押し倒せてしまった。さっきの仕返しとばかりに何度も何度も角度を変えては唇を重ねる。
 ちょっと待て、これじゃあ雰囲気を壊しているのは私の方じゃないか。はっとして身を起こすがもう遅い。明らかに機嫌を損ねた表情のティエリアが私を見上げている。


「どういうつもりだ」
「いや、どうもこうも…」

「はっはい!」


 もう引き攣った笑いしかできない。依然ティエリアに馬乗りになったまま、私は返事をする。するとティエリアが急に身を起こすので私はバランスを崩し、落ちそうになる。しかしそんな私の体を腕一本で抱き寄せ、ちゃんと膝の上に乗せてくれた。かと思えばまたキス。けれど今度は酸欠になるようなものではなく、すぐに離れた。なんとなく物足りなく感じると、それすらお見通しだったのかもう一度唇を重ねる。


「責任は取ってもらう」
「は?何言って…んんっ」


 腰を引き寄せる力が強くなり、心臓の音がティエリアに伝わってしまうほど体が密着する。それに比例するように一層深くなるキスに酔いそうになりながら、私はゆっくり目を閉じた。結局、私たちには雰囲気とか空気なんてものには縁が遠いらしい。元々負けず嫌いが雰囲気を求めること自体間違っていたのかも知れない。












でも、そういうの、嫌いじゃない




(私たちらしくて、いっか)











(2009/5/8 『誰が為に君は在る』さまに提出!)