持っている内は、それが自分を構成する重要な核であるということに気付かない。どうでもいい、手放してしまいたいと思っても、いざこの手を離れてみると大きな喪失感に襲われることがある。
なくても生きて行けると思っていた。それがなくても私は私で、不安や恐怖に襲われることなく生きて行けると。けれど実際は違った。こんなにも足元は不安定で、どこへ向かえばいいのか分からない。ふと手元を見た時に、私には何も残っていないと気付いてしまった。こんな空っぽの私では、誰にも認めてもらえない。私は、バイオリニスト・だから価値があったのであって、ただのになんの価値もないのだ。
バイオリンを弾かない私を、誰も必要とはしてくれなかった。