一人で生きると言うことなんて誰もできなくて、だから誰かに縋ろうとする。生きる世界が違っても、世界に認められなくても、誰にも味方されなくても。気持ちに逆らって生きることなんてできなくて、そのせいで過ちを何度でも繰り返してしまうのに、学習しないこと私をあの人は笑わないから私はいつまで経っても前に進めないのだ。

「ん…」
「すみません、起こしてしまいましたか」
「や、大丈夫です…」

 本当はまだ眠い目を擦って身体を起こす。ずるりと掛け布団が落ち、剥き出しになった肩が外気に触れた。雨が降っているのだろうか、やけに冷える。
 裸も同然の私とは違い、もういつも通りの装いを完璧に済ませている一期さんに、私は少しだけ眉根を寄せた。
 寂しいと言って縋っても、結局はこういうことだ。私ばかりが求めて求めて、最終的に返されるものは私の10分の1くらいしかない。私が主だから言うことを、命令を聞いてくれるだけで、それ以上はきっと何もない。寂しさを埋める術として求めたものなど、愛に変わることはない。知っていたことじゃないか、自分だって利用されたことくらいある。それをなに、今になって被害者ぶっているのだ。

「もう少し眠られていても大丈夫ですよ」
「起きます。二度寝なんてしている時間はなさそうです」
「そうですか、それではまた後ほど」
「一期さん」
「はい」

 散らかった着物を掻き集めて握り締める。
 もし、最後の一線を超えたいと私が願えば、彼は一緒に来てくれるのだろうか。寂しさも孤独も超えたそのもっと先まで、たとえその先で私と二人きりになるとしても。…言えるはずがない、彼だって頷くはずがない。だから私は、彼と過ごした翌朝、言いたい言葉を呑み込んで終わる。

「なんでもありません。また後で」

 もう少しここにいて欲しい、それすら言えないのだ。




暗い朝


(2015/07/05)