プリズム




 突然、バレー馬鹿の後輩から「部活以外のことで相談があるんスけど」と言われた。影山からバレー以外の相談って何だ、勉強か、ようやくその気になったのか―――そう期待したのも束の間、全くの別件だった。そりゃそうか、と溜め息をつく。だがその相談内容と言うのがなかなか深刻なようだった。
 この間、影山とも親しくしているらしい、俺のクラスメートのとある女子の住所を訊ねて来た。住所を知って悪用するような奴じゃないから教えたのだが、それ以降どうやら影山がおかしいのだ。影山だけでなく彼女も本調子ではないのだが、自分から何があったのか首を突っ込むのもどうかと思い、暫く様子を見ていた。そしてとうとう今日に至った、ということだ。
 内容は、影山が彼女の家を訪ねた日、熱で朦朧とする彼女に好きだと告白されたらしい。うん、告白?

「はァ!?」
「い、いや、だからその、」
「あいつ影山好きだったのかー…」
「い、いやでも分かりません、もしかしたらカニカマって言ったのかも…」
「あいつカニカマ嫌いだぞ」
「じゃあカニミソ」

 最早「か」しか合っていない。一体何をそんなに認めたくないというのか。確かに彼女は時折めちゃくちゃな所もあるが、クラスメートとしてはいいやつだ。影山とも上手くやっているように思えたのだが。
 確かに端から見ていて彼女は随分影山を気に入ってはいるようだった。だからか、驚きはしたが影山が告白されたと聞いても意外ではなかった。まさかそのタイミングでとは思わなかったが。しかも一番厄介な言った本人が覚えていないパターンだ。

「で、影山はどうしたいわけ」
「か……考えてない、ス」

 ものすごい怖い顔してるけど大丈夫かこいつ―――思わずこちらの顔も引きつった。まあそりゃあ、影山は何も考えていないだろう。寝ても覚めてもバレーしか考えていないようなやつだ。
 けれど、それならどうして昨日こいつは彼女の家を訊いて来たのだろうか。多少なりとも彼女を意識しているのではないのか。その辺は影山なので分からないが、普通なら何とも思っていない相手、しかも異性の自宅など訊ねるはずがない。しかも本当に訪問するなど。

「あー…まああれだな、影山がカニカマかカニミソか分からないならあいつに直接言ってみろよ」

 適当なこと言い過ぎだろ、俺。でもこういう恋愛沙汰の相談なんて俺にどうしろと言うんだ。俺は西谷みたいに潔いアドバイスなんかできないというのに、面白がりこそしないが影山は選ぶ相手を間違えている。影山の周りに適切な助言をできる人間がいるかどうかと言われれば、それも自信はないが。
 影山は相変わらず複雑そうな顔をしている。影山のことだから本当にストレートに聞きに行ってしまいそうだ、言われたとおりに。それで解決するならいいが、恐らく彼女は相当驚くだろう。

「そ、それは、俺から先輩に好きって言えってことっスか……」
「うんそうそ………はァ!?」
「いや、だから、」
「いや、そうじゃなくて!」

 こいつ、自覚あったのか。ちゃんとそういう目で彼女を見ていたのか。その驚きの方が大きくてつい問い詰めたくなる。いつから、何がきっかけで、というかこれまで言うタイミングはなかったのか。
 俺が聞きたいことがありすぎて口をぱくばくさせても、影山は何やら照れたように顔を赤くするだけだった。







(2015/05/26)