なんでこうなったのか分からない。気が付くと私は男子バレー部の部室で影山ちゃんに押し倒されていた。部室の真ん中にある長テーブルの上に。私の両足は宙ぶらりんで、両手はしっかりと影山ちゃんに固定されている。別に私はこの部室を覗きに来た訳でも何でもなくて、影山ちゃんに話があるから待っていて欲しいと言われたため、その通り部室前で待っていたのだ。それが、いつの間にこうなった。

「か、影山ちゃん、これは一体…」
「俺が先輩を押し倒しています」
「じゃなくて!ちょっと落ち着こう!一旦離れよう!」
「嫌です」
「嫌とかじゃなくて!」

 私がどれだけ起き上がろうとしても、がっちりと手首をテーブルに押し付けられてしまい、不安定な体勢では身をよじることすらできない。蹴り上げてやろうかとした一瞬の隙をついて、私の脚の隙間に身体を滑り込ませる後輩。いつもは減らず口で生意気なばかりなのに、なんでいきなりこんな展開になっているのか私には分からない。
 目をしろくろさせる私の耳元で囁く、「いつもの仕返しです」という言葉。声も出せずにいれば、するすると唇は顔の輪郭をなぞるように降りて行き、首筋に到達する。私が真っ赤になっているからか、その唇を生暖かく感じて、それが逆に妙な気分にさせる。変な声が鼻から抜けて出そうになり、思わず思い切り唇を噛む。すると、何か獲物でも狙うように鋭い眼で私を見下ろす。

「そんな余裕、すぐなくなりますよ」

 そしていつもはバレーのためにある手が私のブラウスの下に滑り込んだ。








「…ていう夢を見たんだけどどうだろう、田中」
「知らないっスよ!欲求不満じゃないスか!」
「何を!私は純粋に可愛がってるのにあれはない!」
「いつも下心駄々漏れな顔してますけど」
「もういい西谷に相談する!」
「“今日にでも押し倒せ”で終わると思います」
「……そうだね」
「おっ影山」
「ぅげっほごふっ!?」
「嘘でした〜!!予鈴五分前っスよ」
「すんません田中先輩、古典の辞書貸して下さい」
「ぎゃーっ!出たーっ!」
「はっ!?」




案外未来


(2014/11/02)