「影山ちゃん見っけ!」

 財布を片手に昼休みの廊下を歩いていると、目当ての自販機の前によく知る後輩を見つけた。ついからかってしまいたくなる可愛い可愛い後輩だ。しかしその後輩はぶすっとした顔でこちらを振り返る。

「…先輩、高校にもなってその呼び方やめてくれませんか」
「中学だろうと高校だろうと影山ちゃんは影山ちゃんでしょ?」
「子どもみたいじゃないですか」
「何言ってんの、私たちまだ子どもだよ」

 すると更に唇を尖らせる。不服な時にこんな顔をするのは影山ちゃんの中学―――いやもっと前からの癖なのだろう。私が彼と出会ったのは中学だから、それ以前のことは知らないが。
 しかしあの小さくて可愛かった影山ちゃんもこんなに大きくなってしまった。バレー部だしそもそも男子だし仕方ないのだが、容易に頭を撫でてやることができなくなったのはやはり寂しいものがある。だが彼はまだ身長を伸ばしたいのか、自販機の牛乳と飲むヨーグルトで随分悩んでいるようだ。私からすればどちらも同じようなものである。私はもうこれ以上身長が伸びないからだ。

「迷ってるなら先にいい?」
「あ、はい、どうぞ」

 私は財布から200円取り出す。まず一枚入れ、ボタンを押すとガコンという音を立てて商品が落ちて来る。続けて二枚目、同じことを繰り返した。私はその二つをそれぞれ片手ずつ持ち、背中に隠して影山ちゃんを振り返った。

「右と左、どーっちだ」
「はい?」
「右と左、どっちでしょう?ほらほらほら」
「はぁ…?」
「あーもう影山ちゃんたら鈍いなあ。せっかく先輩が奢ってあげようってのに」

 頭にクエスチョンマークを浮かべた影山ちゃんの手を取り、自販機で買った二つの商品を乗せる。

「影山ちゃんの未来への投資ね」

 牛乳と飲むヨーグルト、その二つを手にした影山ちゃんは更に目を点にする。訳が分からん、とでも言いたげに。
 本当はこれ以上背が伸びてくれても困るのだけれど、影山ちゃんが望むなら仕方ない。それに彼が熱心に練習しているバレーは少しでも身長が高い方がいいのだろう。だから、影山ちゃんの成長を願って、という意味を込めてプレゼントだ。
 まあそれに、身長差が広がれば広がったなりのからかい方を考えればいい。何せ私は影山ちゃんが大好きなのだから。

「影山ちゃん!身長が185cm越えたら好きって言ってあげる!」
「は………はぁ!?」
「頑張って身長差広げてね!じゃ!」

 今も既に20cm以上ある身長差。それがもし30cm近くになったとしても、変わらないことはある。影山ちゃんが影山ちゃんであることと、私が影山ちゃんを好きという事実だ。
 だからねえ、もっと大きくなってね。




あの子は成長期


(2014/08/20)