ぶすくれた影山ちゃんがうちに来たのは夕方だった。もうとっぷりと暗くなっているのに何事だ。そう叱り飛ばそうとすると、それより先に私よりずっと大きい体がのしかかって来た。なんとかなだめて部屋まで通すも、口を尖らせて黙ったままだ。とりあえず、部活帰りで空腹であろう彼のお腹を満たすべく、私は作りかけだった冷凍用のホットケーキを一枚焼くことにした。 テレビをBGM代わりに流しているものの、影山ちゃんはテレビとは全く違う方向を見ており、あまり意味をなしていない。恐らくバレーのことだろうが、ド素人の私が踏み込むのは違う気がして何も聞くことができない。それに大抵、バレーのことなら自分で解決してしまうのだ。それまでに背中を押したり、腕を引っ張ったりすることはできるのだけれど。 「影山ちゃん、こっちおいで」 名前を呼ぶと、ぴくりと反応してこちらを踏み向く。未だ険しい顔をした彼は、怪訝そうにしている。ちょいちょい、と手招きすると、ようやく鞄を置いて重い足取りでキッチンまでやって来た。 「はい、あーん」 「な、なんなんスか…」 「いいから、ほーら」 まだ焼き立てで湯気の立っている一切れを、フォークに刺して口元まで持って行く。頭にクエスチョンマークを浮かべたのは一瞬で、素直に口を開いたので思いっ切り突っ込んでやった。 「あっつ!!」 「あははっ!」 「何考えてんだアンタ!」 「えー?」 よかった、これでいつもの影山ちゃんだ。 それにしたってこのホットケーキの見た感じ、どう考えても熱いに決まっているのに、影山ちゃん派こう言う時でもやっぱり馬鹿である。そこが可愛くもあるのだが、もう少し判断力をつけてくれないと私は心配だ。これじゃ私のなすがままではないか。 「これ、もうすぐ焼けるから半分こしようね」 「はあ…」 「お腹空いてるでしょ、頭使ったから」 「そういえば……ていうか、なんで分かったんスか」 分からないとでも思ったのか!!―――内心かなし驚きつつ、呆れつつ、察することのできない私とでも思われていたのだと思うと、多少はいらっとするもので。カチンと来た私は、力任せに影山ちゃんのジャージの襟を引っ張ると、ぐっと近付いた顔に押しつけるようにキスをした。 「もうちょっと私のこと分かっててくれていいんじゃない?」 今度は私がぶすくれた。影山ちゃんは相変わらずぽかんとしていて、私の言ったことがよく分からないようだ。なので、普段は私から仕掛けることなんてないのに、もう一回背伸びをして、今度は唇にキスをしてやった。 |