真冬に外で体育をさせるってどうかと思う。ただでさえ女子は制服もスカートだと言うのに、寒くて寒くて仕方がない。回路を入れた制服のポケットに手を入れて、寒いを連呼しながら教室に戻って来ると、廊下とはまるで別世界である。冷暖房完備の教室に感謝しながら席に着くと、突如ひやりとしたものが首元に滑り込んで来た。 「ひぎゃぁっ!」 「わ〜ちゃんすごい声だな〜」 「黒尾ほんと最低!」 さっきまで教室にいなかったはずの後ろの席の黒尾が、冷たい手で私の首を触って来たのだ。思わず叫んだ私の声は、教室中に響き渡って注目を浴びる。この男は本当に最低な奴だ。 「寒いって言ってんじゃん!」 「びっくりしたら温まると思って」 「そんなの聞いたことない!」 しゃっくりじゃあるまいし、訳の分からない理論を展開する黒尾を殴り飛ばしたい気持ちでいっぱいになる。だがそれは一度や二度ではない。先日の席替えでこのクラスメートが後ろの席になって以来、碌な目に遭った覚えがないのだ。いきなり背中を突かれたり、後ろから椅子の座面を思いっ切り蹴られたりと、心臓に悪く寿命の縮みそうな悪戯ばかりされる。手が冷たい人間は心が温かいと言うが、そんなもの真っ赤な嘘に違いない。少なくとも黒尾に関しては。そもそも優しい黒尾なんて想像もできない訳だが。 「小学生みたいなことばっかやめてよね!」 「今のはボクの優しさです」 「ダウト!!」 指をさして叫べば、その手を黒尾に捕えられる。そして自身の両手で包むと、私をじっと見ながら今度は茶化さずに言う。 「手、冷てぇな」 「はァ!?だからさっきから寒いって、」 「なんなら両手あっためてやろうか?」 何かを企むように笑うと、私の冷えた指先に口接ける。 「じょ…っ、冗談やめてよ!」 「あらら、残念」 本当に心臓に悪い。こうして心拍数の上がる毎日のせいで、そろそろ心臓が悲鳴を上げそうだ。一刻も早く黒尾から逃れたい。けれど、三カ月に一回の席替えでは、まだ黒尾から逃れられるのは当分先である。とにかく今は、一刻も早く時が過ぎて席替えをして欲しいと言うのが私の切実な願いなのである。 |